「ねえランス! 本当に回復しなくてよかったの?」
「いいんだよ、このままいくぞ!」

 ガルラ帝国を敵とし、宇宙の救世主として星々を守るヴォルトロン。中でも青い鎧を纏った短い髪の彼は、強い騎士である。そんな人も休憩が必要で、私は随分と背の丈がある彼の部屋に「とっととこい!」と呼び出されていたのであった。何事かと走っていくも、液晶を目の前に座り込む彼、ランス・マクレーンが楽しそうな顔をして待っているだけであった。その液晶に繋がれたコードの数々と不思議な形の両手で持つタイプの機器二つが並んでいるのを見て、深いため息をつくのであった。
 そんなこんなでランスの脚の間に詰め込まれてゲームをしているのだが、彼にはそんな気はなくともどうしようもなく心臓がばっくんばっくんと激しく血液の循環をしている。なんと言っても、なんだか気が緩そうなのに根がしっかりしていて頭もよく努力家の彼に大分夢中になっているからである。逐一なんでこんな男が好きなんだろうとも思うが、やっぱり大好きだから仕方がない。落ちてしまったものはもうどうしようもないのだ。それでもこの体制はズルかった。ランスがゲームに夢中になる度に私は抱きこまれるようになり、大きな背が曲がり心臓が近くなる。顔が暑くなっているのはバレてないだろうか、耳は赤くなってないだろうか、身体は蒸気が出そうなほど暑苦しくなっていないだろうか…そんなことばかり気になってゲームどころじゃない。上からはあっちじゃないこっちじゃないと聞こえるが、手元なんて狂いまくりだ。

「…名前ってゲーム下手なのな」
「は、初めてだし、上手なわけない!」
「わりぃなー、もうちょっとつきあってくれよ」
「しょうが無いからつきあってあげる」

 いや、決してこの距離にいるランスをもう少し味わっていたいだとか、私を気にしてくれているのが嬉しいだとか、そういうことではない。本当はこんな生き地獄はゴメンなのだ。本当だ!
 耳元からランスの少し高い声が聞こえる。ランスのことだし、分かってないんだろうな…と思いながらもドキドキする胸に、いい加減慣れろ! と叫び続ける。ランスの背伸びした人工的な花の匂いとその奥にいる少しだけの汗のにおいが自分とは全く違う性別の身体なのだ、と理解させられる。

「おいおい、名前大丈夫か? 必殺技のコマンドはこうだ」
「ギャッ!」

 コントローラーに添えられていた私のぎこちない手の上からランスの大きくて固い掌が重ねられる。思わず可愛くない声が漏れて「お前なぁ」と笑われる。なにを笑っているんだ、こっちはお前に振り回されっぱなしなんだ!!

「聞いてたか? 〇を三回…」

 ポチポチポチ、と優しく私の指の上からそれを押すランス。重なる域が多くなり、もうコマンドがどうとか覚えてなんていられない。あまりの展開に涙が流れそうだ。

「ランス! も、もうやめ…」

 くる、と振り返れば息が詰まってしまう。ランスのその薄い瞼と垂れた目尻、そして私の大好きな彼の瞳。目を丸くしていたランスと至近距離で目があって、ドキドキどころかビックリだ。肩を縮めてランスから距離を取ろうとするも、彼の肩や胸にぶつかって逃げられない。どうしよう、どうしよう! 「…お前、」ランスのおおきな手が私の顔に添えられる。そんな優しく触れないで、そんな優しくて苦しそうな顔で見ないで、お願い。近づく薄い唇。もう、どうにでもなれ…──

「ランス! そろそろ僕にもストフォ貸してくれない? って名前もいるじゃないか。どうしたの?」
「は、ハァイ!! ピッジくん元気ぃ?!」
「あー、あーピッジ、悪かったなあ! ちょっと待ってくれよな!」

 タイミングがいいのか悪いのか、突然訪れたピッジに、目にも見えない速さで距離をとるランスと私。まるで二人は何もしないで電球でも変えているかのようにみえるだろう! まあそんなことはないかもしれないが。
 しかしこのタイミングを逃すわけにはいかない。苦しいくらい変な動きをする身体をどうにか動かして部屋を出る。

「そっそれではここら辺でオイトマするとしましょうかな! ははは! じゃあね!」
「あっ……。名前、彼女どうしたの?」
「どうしちゃったんだろうねぇーー!!」

 さっきまで近くにあったランスの身体。背中があの熱をまた求めてどんどん冷めていく。そして思い出すランスの唇と掌と、あの瞳。まるで、まるで、あんなの、愛情が篭っているみたいじゃないか。私は必死に入り込んだ自分の部屋にたどり着くやいなや、ドアを背にして座り込んだ。顔は信じられないくらい暑いんだろうけれど、心臓のドキドキが身体全部を震わせているみたいでそれどころじゃない。ランスにどんな顔で会えばいいの! 胸から『好き』が溢れて止まらない。誰かこの胸を止めてーー!!





大好きな人のために買った香水は少し背伸びしすぎたみたいでした。

2018/03/23
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