★あなたという人間は私を苦しめるためにそこに存在しているのであれば、もう十分にその役目を果たしている


明るい栗色をした髪を後ろで纏め、スタジャンとショートパンツにブーツを履くのが私のスタイルだ
メイクだって釣り目で、唇だって赤くする。まるで近寄れない女
私はタツ姐さんが「あんぱん食べたい」と言えばあんぱんを買いに行く
今日は「優香が作った卵焼き」だった
しばらく出入りしていないアパートに入り、買ってきた卵と油をフライパンの上で調理した
卵焼きというのはよくわからない。ただでさえ料理なんてしていなかった私だから、きっと酷いものになる。
そう思っていたけど、なんとかうまくできてしまって、砂糖と味醂の入ったそれは甘く美味しかった
私はそれをタッパーに入れて、天下一通り前のタクシーに急いだ

「よお、お姉さん」
「可愛いね、俺らとデートしない?」

何が楽しいのか、公園の前で話しかけてきた男たちは、大勢で私を囲んだ
キッと目を尖らせ「邪魔だよ、退いて」と言うと、「うわ〜カッコイイ〜!」なんて言った
ため息が出るほど呆れた男たちは、私に詰め寄って来た
それ以上近づくな、性根の腐ったアホどもめ
ある程度近づいたところで、脇腹にナイフが宛がわれた

「おっと、騒いだら怪我するぜ?大人しく来いよ」
「離して。私、そんなもので大騒ぎするほどの女じゃないから」
「威勢のいいこと言ってられんのも今のうちだぜ」

男が私に殴りかかってくる
私はそれを見つめ、カウンターを狙っている所だった

「あちっ、なんだ・・・?」
「・・・悪いな、煙草が当たっちまった」

それは桐生一馬という、怖い人だった

「あ?なんだテメェ!」
「クソ野郎、邪魔なんだよ!」
「煙草だって、わざとだろうが!」

桐生さんはペッと唾を飛ばし、息を吸った

「てめえらのナンパ見てたら胸糞悪くなったんだよ!」
「っひ・・・」
「・・っ、うるせえ!やっちまえ!」

私を囲んでいた男たちは、恐ろしい気迫をした桐生さんに殴りかかっていった




「大丈夫か、優香」

私の名前を呼ぶ目の前の男は、私に手を差し伸べて、手の甲一面に血がついていた
なんて血の気の多い人なんだろう、怖いなあ、と思い、手を振り払った

「あんたが来なくても、私はこいつらの事ぶっ飛ばしてたから」
「へー、そうか」

顔についている血を拭えないままにしている桐生さんに、ハンカチを差し出して

「顔についてる、拭いてからにしな」
「ああ、ありがとな」
「じゃ!」
「え、あ・・・おい!」

私は天下一通りのタクシーまで走った
怖い、怖い、怖い。全身を駆け巡った電流のようなものに驚いて、脈拍が早くなる
タクシーに乗り込んで、全身の震えを止めるように、自分で自分を抱きしめていた



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