「お客さん、つきましたよ」

運転手さんの声を合図に、重たい瞼を上げる
このご時世、夜にタクシーへ乗ることも、倍以上のお金がかかる
冬休みに大学の友達と神室町に行こう、だなんていわなければよかった
電車が遅れて、タクシーで行こうとしたけど、タクシーは一向に止まらないし
・・・まあ、私が寝坊しなければよかった話だけど

(随分、昔の夢を見たなあ)

何年か前、一馬が行ってしまう話
あの頃は、歳相応には見えない一馬が当たり前のようだったけど、今となっては珍しいものだった
みんな流行に置いて行かれまいと必死で、真面目に勉強なんてしてるほうが可笑しい世の中になってしまった
私はタクシーの運転手さんに、万札を4枚ほど渡し、満面の笑みを頂いた
お金がすべてな時代、流行りの最先端のようなこの町で、少し地味な色のワンピースを着た私は、取り残されていた
ポケベルで友人に連絡を取り、公衆電話に駆け付けた

『ちょっと!名前、トロすぎじゃない?!』
「ごめん・・・」
『一応私、ホテルにいるけど、迎えに行く!説教はその後!』
「はい・・・お願いします・・・」

こんな忙しない町で、俊敏に動けるあなたは素晴らしいと思います・・・
そう心で呟いてから、待ち合わせの場所を聞いた
右も左もわからないと言うのに、"劇場前"だなんて
とりあえず目の前のコンビニに入り、美人の店員さんに聞くと、丁寧に教えてくれた

「この道まっすく・・この道まっすぐ・・・」

呪文のように呟いて歩いていると、人にぶつかってしまった

「どこ見てんだよてめえ!」
「あ、ご、ごごめんなさ・・・?」

発せられた声は高く、目線も低かった
私が目を丸くして見つめると、よくわからない憎まれ口を叩かれた
回りに大人はいないし、迷子なのかな
私がしゃがんでその子に問いかけた

「キミ、迷子?」
「は?うるせえ、ガキじゃねーんだよ」

いや、ガキじゃん
そんな言葉を飲み込んで、笑顔を作って問う

「お名前は?」
「ダイゴ」
「ダイゴくん、劇場前ってどこかわかる?」
「ババアこそ迷子じゃねえかよ」
「ババアじゃありません、まだ21ですー」
「俺から見ればババアだぜ」
「うるさいガキ!」
「子どもかよ!」

フッとダイゴくんが鼻で笑うと、手を差し伸べてきた

「案内してやるよ、名前なんて言うんだよ」
「名前ちゃんです」
「名前、よろしくな」

その笑顔は、まだまだ子どもだったが、エスコートしたいのか、私が歩くと、歩幅を大きく、急ごうとする
そんなダイゴくんに気づいて、歩くのを遅くすると「お高く止まってんじゃねー」とか言ってずんずんと歩いた

「ここだよ」
「ありがとう、ダイゴくん!」
「ふん、礼なんかいらねーよ」
「はい、オレンジジュース」
「ガキじゃねーぞ!」

と、いいつつ、ダイゴくんは美味しそうにオレンジジュースを飲んだ
ダイゴくんの可愛さに見とれていると、後ろから声をかけられた
ドスの聞いた低い声、明らかに友達ではなかった

「若!」
「てめーか、若の事誘拐した女は」
「え?」

若と呼ばれたダイゴくん、誘拐犯扱いの私、男の胸についている見慣れたバッジ

「こっち来い!話聞かせてもらおうか」
「や、あの、誘拐とかしてないんですけど・・・」
「どう見ても誘拐だろうが!嘘ついてんじゃねえ!」
「やだ、離して!」

すごい力で腕を掴まれ、怖くて反抗する
いつの間にかここら一帯を囲む野次馬たち
「見せもんじゃねーぞ!」と叫ぶと、野次馬たちは散っていった
ダイゴくんはいつの間にか車に乗せられ、私は別の車に乗せられそうになっていた
車に乗る前のダイゴくんの目には、涙が浮かんでいた

「ちょっと、ダイゴくん、泣きそうじゃないですか!堂島組の人ですか?柏木さんを呼んでください!」
「てめえ、なんで柏木さんの名前知ってんだ!やっぱただもんじゃねーな!」

そうだ、このバッジは堂島組の・・・
そしたら、彰とか一馬とかもいるのかな?
温い事を考えているとダイゴくんが男たちの腕を解いて、私の身体にしがみついた
見ると、涙目で私の服を握るダイゴくんは、今にも涙をこぼしそうだった

「わ、若・・・」

男たちはダイゴくんの様子にたじろぎ、私の腕を離した

「何やってんだてめえら」

聞き覚えのある低い声と、長い髪を見て、私はホッと息を吐いた

「ん・・・?名前ねえちゃんか?」
「彰!久しぶり!」
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