就職先もあっという間に決まってしまった私は、暇な時間に神室町に来てしまった
いつかひまわりも継ぎたいな、なんて風間さんに話した時の事を思い出した
私はあんな幼い頃から、そんな事を言っていたのだと思うと、なんだか気恥ずかしい
神室町に来たのは、暇だったからという理由と、一馬に少しでも会えるかな、という期待だった
神室町内は広いようで狭くもあった。だから、会えるかもしれないと、思っていた

「あれ・・・?」

見かけたのは白いスーツでボタンを閉めて、橙色をした地のシャツを着ている一馬っぽい人だった
メガネをかけていたように見えたので、違うと思う
それにスーツを新調するなんてお金、一馬の懐にはないはずだ
あ、彰の奢りなら、考えられるかも
斜め後ろから見たその後ろ姿に、気になって後をつける
路地をまがった所で、後ろから手を引かれ、口を押えられた

「あの人の事、追ってたみたいだけど、何か用かな?お嬢さん」

叫び声をあげたい所だけど、あげられないとわかっていたので、しっかりと顔を見る
両耳に高そうなピアスをつけ、何やらド派手なシャツとスーツを着ていた
うわ、なんだこの人!やくざにもこんなのがいるのかなあと思った

「叫ばないんだね、関心関心。堂島組には見えなさそうだね・・・」

堂島組?
聞きなれた言葉が耳元を駆けた
「とりあえず来てもらおうか」と言われた私は、腕を引っ張られ、歩かされた
結局私が追っていた彼は誰だったのだろう?一馬じゃなかったのかな
口が自由になったので、とりあえず話してみる

「あの・・・どこの組の方ですか?」
「組?・・・ああ、俺らやくざじゃないんだよね。こういうものです」

丁寧に名刺を渡された
本当はそれを最初にやってもらいたかったものだ、と心で呟きながら、受け取った

「え、やだ、不動産屋さんだったんですね。本当にすいません・・・」
「いえいえ、いいんですよ」
「私は名字名前というものです。大学生なのですが、もう卒業します」
「え?学生なの?すっごい大人っぽいね」

なんだこの人・・・私が身のうちを明かすと、腕の力を弱めただけで、掴んでいる手は強かった
尾田さん、という人は、胸元からポケベルをだし、何かを送った

「・・・あの、私が追っていた人って、誰だったんですか?」
「え?知らないで追ってたの?」
「あはは・・・知り合いに、似ていたもので・・・」

髪型も背中の大きさも、歩き方も、本当に似ていたのだ
それに堂島組って・・・もしかして、一馬だったりしたのかも?!

「・・・つかぬ事をお聞きしますが、私の追っていた人って、桐生一馬という人ではなかったでしょうか?」
「・・・あんた、なんでそいつを追ってんだ」

いきなり尾田さんの足が止まり、声に棘が入った
私が、なるべくこの人を刺激しないように、大きく息を吸い、言いかけた

「あ、」
「なんだ尾田、いきなり呼び出して」
「尾田さんって呼びなさいよ、まったく・・・この人、知ってる?」

尾田さんに姿を見せられた私と、目の前の正真正銘、桐生一馬の目があった
未だにメガネをかけていて、私を見た瞬間に目を見開いた

「名前じゃねえか・・・神室町に来てたのか」
「う、うん・・・一馬、目が悪くなったの?」
「なんだ、お知り合い?」

尾田さんは私たちの様子を見て、ため息をつきながら私の腕を離した
一馬が私の事を尾田さんに紹介した後、私は尾田さんに「お騒がせしました」と言った

「いいんだよ、こっちこそ勘違いしてごめんね。今桐生くんがちょっとややこしい事になっててね」
「ややこしい事?」
「気にするな」

一馬に優しくそういわれるので、私も気にしない事にする
よく考えれば一馬がややこしい事に巻き込まれるなんて日常茶飯事ではないか
一馬は銃を何発受けても死なない気がする。それでも、

「一馬、死なないでね」
「当たり前だ、死なねえよ」

必ず、私とまたお話してね
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