「きみもおとこのこ」

 この本丸で、私が一番お世話になっている刀は短刀の厚藤四郎である。他の短刀達といる時も薬研藤四郎と二人でうまくまとめている所も見る。個人的に、彼はとても兄貴肌なのだろう。しかしどうだろうか。そんな厚藤四郎は、呼吸をするかのように私のことをとろいだとか鈍感だとかからかってばかりいる。身長差だってあるし、私の方がお姉さんなはずなのに、彼は私のことをそうやってからかうのだ。あまりからかわれるとそれを他の短刀達が真似してしまうかもしれないのに。

「何やってんだ大将。」

 昔の書類を取り出そうと、埃っぽい資料室まで足を運び、資料を見つけた。しかし届かないので限界まで爪先立ちして痛いほど手を伸ばしている所だった。そんな私を見て、厚藤四郎はにやりと笑った。なんという事だろう。こんなみっともないところを見られたくなかった。

「どう見ても届かないんだから諦めろって。他の刀に頼んでもらえよ。」
「だって、もう少しで届・・・く!」

 試しにその場から目的地まで飛んでみるが、やはり目の前目掛けて伸ばした手は空振りだ。大太刀の誰かに頼んでもらおうか・・・。

「おいおい。飛んでも届かねえって。自覚しろよ天然。」
「な、なにをう・・・?!届く!届きますもんね!」

 厚藤四郎は鼻で笑い、私はそれを見てむかっとくる。肩をすくめてやれやれと言っている厚藤四郎に向かってもはや無理だろうというのにつまらない意地を張った。

「無理だって。やめとけよ。」
「届きますから!・・・ほっ!・・・はっ!」
「やれやれ、全く・・・」

 視界の端で厚藤四郎が呆れているのを感じた。もう少し頑張って、厚藤四郎がここを去ったら誰か呼びに行こう。そうやって考え事をしているのが悪かったのかもしれない。思い切りジャンプをして、着地に失敗した私は、足首を抉いてそのまま地面に倒れようとしていた。変に意地を張るからだ。自業自得だ。少しの恐怖に目を瞑る。・・・しかし待っていた鈍痛はこなかった。恐る恐る目を開けると、恐ろしい形相の厚藤四郎が目に入った。

「だから言っただろ、どうせ届かないから諦めろって。危ないだろ!」
「えっ・・・と、ご、ごめんなさい。」
「ったく・・・。」

 こんな厚藤四郎は見たことがなかった。いつもからかってばかりなのに、倒れる所を支えられ、その上怒られるとは。そして、さも当たり前かのように私はそのまま厚藤四郎に抱えられた。そんなまさか、まさかまさかだ。厚藤四郎にお姫様抱っこをしてもらう日が来るなんて。流石、日頃出陣してばかりの刀剣男士なだけはある。急なことに驚きを隠せない私は、厚藤四郎の首に腕を回し、がっちりと抱きついた。

「足、捻ったんだろ。薬研のとこまで連れてってやるよ。」
「ごめん・・・。」
「こういう時はありがとう、だろ?大将がいつも言ってるじゃねえか。」
「・・・あり、がとう。」
「おう!」

 久しぶりに見た厚藤四郎の笑顔は、なんだか眩しく見えて・・・いつの間にこんなに逞しくなったのだろうか。もしかしたら最初からかもしれない。どちらにせよ、厚藤四郎の男らしい一面に心臓がどくどくと激しく活動するのは、どうやっても止められなかった。
 
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