04


はあ、とため息つく。

何でもやる、とか言って結局これ。
俺への"仕返し"は優しすぎたんだな。
そうだ遊びじゃない。仕事なんだ。
依頼主の気持ちを汲んで、対象の性格を分析していかに効果的な"仕返し"をするか。
あいつらセックスばっかしてるイメージだったから。
なんとなく自己嫌悪。

「さあてー、いよいよショーもクライマックスー!」

ルーの声と歓声が聞こえる。
ああ、行かなきゃ。
仕事は放り投げられない。



「ラストはスカルファック!…といきたいところですが、死んだら困るのでフィストファックで締めたいと思いますっ。さあ、田中様…力を抜いて」

ステージに戻ると、黒子曰く孝さんが田中のアナルに拳を挿入しようとしているところだった。

「あぁぁあっあっあ…っ」

田中の声が出るようになった分、余計リアルで冷や汗たれる。
必死に拒もうとがちゃがちゃ拘束具を揺らす小さな抵抗など無意味。

「ぎ、ゃあ゛ぁぁあ゛ああ゛っ…!」

耳を塞ぎたくなるような悲鳴と歓声が響き渡る。
田中のアナルに孝さんの腕がずっぽりハマっていた。
ぐるんぐるん、と何回か腕を回してまた勢いよく腕を抜いた。

「…はいっありがとうございました!調教師田中に盛大な拍手を!助手るたか君に拍手を、そしてマイク担当させていただきましたのは私ルーでした!それでは皆様ご機嫌ようっ」

わあわあ、と響く歓声の中、俺たちは半分意識のない田中も一緒に舞台裏へ引っ込んだ。
一息吐く間もなく、まだ仕事は残ってる。
田中を運ばなきゃ。




「田中、どこ捨てんの?」
「会場の外。客がお持ち帰りしてくれる」

楽屋のシャワーを浴びようと衣装を脱ぎだした孝さん。

「あ、じゃあ俺が捨ててくんね」

何も出来なかったんだ。それくらい俺がやんなきゃ。
しかし孝さんは首を横に振って、

「ルーにやらせろ。かなめは客席にゲストがいるからそいつを連れてこい」

そう言って簡易シャワー室に入っていった。

「ゲストって…どちら様?」
「行けば分かるよ。じゃまた後で。客が帰る前にこいつを捨ててこないと」

ルーはニヤっと笑い、田中を引きずって楽屋を出ていった。

言われた通り、ステージに戻りゲストやらを探した。
行けば分かるって言ってたな。
人がまだらになった客席に確かに見たことある顔がいた。

「あのー」

声をかけると、気づいた彼は嬉しそうにステージに昇ってきた。

「お疲れさまです」
「田中…あーっと、孝さんが呼んでるからちょっと裏来てくれる?」

苗字被らすとやっぱややこしいな。
はい、と頷いたゲスト。
依頼主の少年だった。



「お疲れ。孝さん連れてきたよ」

田中を捨てて戻ってきたルーと楽屋前で鉢合わせ。
楽屋へ入ると孝さんは既に普通のシャツに着替えていて、ああ写メ撮ればよかった、なんて後悔したのは内緒。

「ありがとうございました」

少年が入るなり俺たちに頭を下げる。
なんていい子。田中なんかに騙されて可哀想に。

「清々しいか?」
「はい、スッキリしました」
「…実は田中から依頼を受けていた」

おい孝さん、守秘義務どうした。
少年は一瞬顔を強張らす。

「まあ、条件を満たしていなかったから成立しなかったが」

孝さんらしくない。
依頼主にこんな態度取るなんて。
横にいるルーはニヤニヤしてる。
いやそれはいつもだけど。

「キミがいつでも田中の立場になりえると頭に入れておいた方がいい。賢いだろう、キミは」
「何のことだか。俺は被害者ですよ」
「俺たちの仕事に被害者も加害者も関係ないが…大人をあまりナメるな」

なんだか険悪なムードが流れる。

「ショーの利益分だ。本来は田中に渡るべき金だがキミにやる。田中からの慰謝料として受けとれ。そして、」

孝さんは一息吐いて、

「もう詐欺はやめろ」

そう厳しい表情で言った。
少年は笑みを浮かべながら、渡された金を抱きしめて楽屋を出ていった。

「嫌な雰囲気漂ってるけど…もしかしてこれで、依頼完了的な?」

俺が恐る恐る二人に聞くと、

「完了っ!」
「完了だ」

声を揃えてみんなで笑った。






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