02
もくもくと煙草の煙が充満した部屋。
俺の目の前には坊主で色眼鏡をかけた"いかにも"なおっさん。周りを固めるのは若めのヤンキーたち。
さすがの俺でもこうあからさまなのは怖いわけで。
そしてさらに何故か柱に腕を縛りつけられちゃってるんだからおどおどするのも無理ないだろ。
とりあえずここに至るまでの経緯を思い返すと、俺はルーに言われた取引場所へと向かった訳だ。
薬の売買なんて薄暗い裏路地とかぼろっちいビルとかでやるのかと思ってたのに実際は普通な個人経営風な喫茶店。
少し拍子抜けしながらも店に入ると、いかにもマスターな顔したマスターらしき人が俺をちらりと見て素っ気なく一言。
「準備中です」
ああ知ってるよ。札もかかってた。
俺は緊張していたせいか少しうわずった声で、
「あの…ちんすこうですけどサーターアンダギーください」
ルー曰くこれが合言葉なんだとよ。
ツッコミどころ満載なのはあえて今はスルーで。
するとマスターぶった人が表情ひとつ変えずに奥に消えた。
「合言葉を言うとマスターが…いやマスターじゃないんだろうけど…奥にブツを取りに行くから、それを受け取って終了だよ。簡単過ぎてかなめには物足りないかもだけど」
とかルーが言ってたからホッとしたもののマスターもどきはなかなかカウンターには現れず、俺は棒立ちのまま30分程待った。
今思えばここでおかしいと気付くべきだったんだけどもちろん後の祭り。
チャリンチャリーンと店の入口に付けてある鈴の音を聞いたが最後。
そして今に至る。
薬を嗅がされたせいか頭にもやがかかってる。
目の前に陣取ってるリーダーっぽいおっさんは、たっぷり時間をかけて煙草を吸い終わるとやっとで口を開いた。
「兄ちゃんさ、どこのモンなの?」
その一言で俺は察した。
つまり彼らは俺をスパイ的な何かと思ったわけだ
じゃなかったらこんな状況になるわけない。
「…ちんすこうですけどサーターアンダギーください」
「あー? 」
俺はまた合言葉を言ったけど、この状況下じゃさらに間抜けだ。
だけどおっさんは顔色ひとつ変えず、
「連絡もきてない新顔に、はい分かりましたと渡せる程私たちもバカじゃないんでね」
「じゃあ、いつものやつに連絡するんで話つけてください」
だってそうだろ。
そんな一方的な言いがかり。
「兄ちゃんさ、その合言葉知ってんなら仕返し屋のやつから聞いたんだろ? あの背高い金髪のやつなら情報のひとつやふたつ、こぼしそうだもんなあ」
周りから賛同の下卑た笑い声があがる。
「…ルーはそんなこと、しない」
声が掠れて出にくい。俺の渾身の否定も笑い声にかき消された。
「まあ、いいさ。仕返し屋と繋がりがあるなら兄ちゃんもそっち系なんだろ? 楽しませてくれよ」
おっさんが立ち上がったのを合図に、周りの舎弟たちが俺に群がった。
「最近の女は弱くてな、すぐ根をあげるから満足できねえんだ。兄ちゃんは…頼むぞ?」
俺を見下ろすおっさんの歪んだ笑顔を、直視できなかった。
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