02
結局カフェから直帰した俺たち。
今回の依頼は長引くかもと孝さんが言っていた。
前回の依頼主を"仕返し"するんだもんな。
慎重にやらなきゃ。
何か俺も"仕返し屋"らしくなってきたな、とニヤつきながら出勤した。
「…あれ」
「お邪魔してるねー」
にこりと挨拶するのは昨日も見た顔。
まだ誰も来てないのに何で。
「驚かせちゃった? ごめんねー昨日ここに泊まったから」
よく見れば昨日と同じ格好してる。
久々の再会ついでにルーとしっぽりってことか。やりよる。
「ルーは…?」
「朝ごはん買いに行ったよー」
キッチンへお湯を沸かしに向かうと何故かついてくる光さん。
「あのー?」
にこりと笑ってる表情は動かない。
近づいて気付いたけど俺より背丈ある。
何か不公平。
「キミ何て名前ー?」
「かなめです」
「ふーんかなめくんかあ。いくつ?」
「二十歳です」
やかんに水を入れながら答える俺の背中にぴったりくっつく光さん。
なんだなんだ。
「若いなあ。ルーとセックスした?」
毎日してますなんて言えないから適当に頷く。
「やっぱり。ならもうしないでね、ルーは光のだから」
「…は?」
耳を疑う。
光さんってセフレじゃあ、と言いかけて本人から直接聞いた訳じゃないことに今気付く。
光さんは俺の耳を舐めながら囁く。
「だからね。分かった?」
「…!」
かじりと耳朶を噛まれ鈍い痛みに眉をしかめる。
実は美形って苦手。
やっぱ美形とは関わりたくない。
何かもう結局夕方までいた光さんの目線とか光さんがいることで進まない依頼とかそれでまた苛々してる孝さんへの配慮とか、たった一日で精神的に疲れ果てた俺がベットに突っ伏したところへ、
「…かなめーっ」
デカイ男が飛び乗ってくる。
「…邪魔重い」
「えーひっど」
そのくらい言ったってバチは当たんないだろ。
「怒ってる?」
呑気に俺の髪撫でながら聞いてくるからシカト。
「もしかしてかなめ妬いてる?」
「…孝さんが苛々してる」
ルーを責めるのに都合よく孝さんを使ったみたいで言ってから軽く自己嫌悪。
「孝はねー俺のヘタレに怒ってるんだよ」
「バレたくないの?」
って孝さんが言ってたからカマかけてみた。
ルーは一瞬驚いた顔をして、目を伏せて静かに笑った。
「バレたくない訳じゃないけど…やっぱ昔の知り合いには言えないかなー。その人にはその頃の俺が出来上がってるんだし」
俺は昔も今も何も変わらないからルーの気持ちが理解できない。
「昔となんか変わったの?」
ルーは目を見張る。
「ああー言ってなかったっけ?」
「一人称が俺、とか今より断然男らしいとかなら見れば分かるけど」
よく見てるね、と笑われる。
「俺…僕、昔はバリタチだったんだよ」
俺相手は今もバリタチですが。
「ただ孝と出会ってネコに目覚めちゃってさー、ずっと孝とセックスしてたよ。自然とセフレたちとも離れてって」
二人の過去って初めて聞いたかも。
にしても出会いからセックスとか二人らしくてちょーウケる。
「じゃあバリタチのルーがネコになったって事がバレたくないんだ」
少し迷ってから斜めに頷く。
「まあ簡略化してるけど」
「くだらね、」
「…え?」
「だって何で恥ずかしいの? ネコが恥ずかしいの? 俺なんかネコしかムリだけど」
「違うよ、ネコが恥ずかしいんじゃなくて、散々バリタチで周知されて格好付けてきたのに、ケツ掘られて喘いでるなんてキモいとか思うだろ、俺なんて背高いし」
「俺、ルーはタチって思ってたけど、別に孝さんとルーがセックスしててもキモいなんて思わねぇよ。背とか関係なくない? ってかルーってもっと視野広いと思ってたのにちょー萎える」
こんな言い方、って思うのに止まらない。
光さんのこととか今ごろ苛々してきて。
「かなめ、」
デスクから孝さんが諭すように名前を呼んだだけで効果は絶大で俺ははっと我に返る。
「…わり」
俺が謝るとルーは弱々しく笑って事務所を出ていった。
ああ、最悪。
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