01


「あれ…もしかしてルー?ルーだよね、わー久しぶり!」

こういうのを美青年って言うんだな。
キレイな顔した依頼主は事務所に入りルーを見るなり抱きついた。

「え…?」

突然の出来事に驚きと戸惑いの表情を浮かべたルー。

「光だよ、覚えてない?」
「ひかる、ひかる…ひか、ああっ!ジークの?」

思い出したルーに、そうっと嬉しそうに頷く美青年。
どうやら二人は知り合いらしい。

「じゃあここの神崎孝って…わー、やっぱり孝だ!てかルーと孝ってちょー意外な組み合わせー」

孝さんとも知り合いらしい美青年。
雰囲気的にルーの昔のセフレだろーな。
ルーめ、こんな美青年を…やり手だ。

「ジーク潰れちゃったしルーも全く見なくなって、本当あのときは落ちたよー」
「悪い悪い。光は今は何やってんの?」
「んー、愛人?」

眉を潜めて答える光さん。
俺はお茶を出してソファの後ろに立った。
一緒に立つはずルーは光さんの横に座ってる。
というかべったりくっついてる。
光さんが。

「まだそんなことしてんのか」
「だってー僕の魅力なんてそんなものにしか使えないじゃん」

てかルーがいつもより男らしい。口調も態度も違う。
なよなよ感がない。
首をかしげると真正面の孝さんと目が合った。
少し苛々してるご様子で。

「神崎様、先に依頼をお訊きしたいのですが」

進まない話についに口を挟んだ孝さん。
光さんは思い出したように、孝さんに向き直った。
もちろんルーと腕は組んだまんま。

「様とか。光でいいよ」
「仕事なので」

きっぱり線引きをする孝さん。
不満そうに口を尖らせるもルーにも促された光さんは依頼を話し出した。

「愛人やってたんだけどある男のせいでダメになっちゃって、そいつに仕返ししてほしーの」
「どういう経緯で破談に?」
「何かよく分かんないの。パパは絶対あいつだ。あいつがやった、あいつのせいだって。その男がパパに何かをしたかは教えてくれなくてそればっかり。で、その男が光の知り合いだからお前とは別れるって」
「なるほど。お知り合いなのですか?」

光さんの目付きが鋭くなる。

「…知り合いっていうか何年も前から光にしつこく付きまとってくるの。光は断り続けてるんだけど諦めなくて」
「ではその男が神崎様の交際相手に嫌がらせをして神崎様との関係を壊した、と」

こくん、と頷く。
話すペースでキーボードを打ち込む孝さんの指は滑らかだ。

「その男について教えてください」
「はい。名前は…」

光さんの口から紡がれる名前に俺は息を呑んだ。
もちろん孝さんはそんなのおくびにも出さなかったけど。
その男の名前は柏木卓也。
一ヶ月程前の依頼主の名前だった。




話が済んでも事務所に居座る光さんを甘やかすルー。
苦笑しながらちらちら俺たちを見てくるけど俺は何も出来ない。
だって孝さんが何もしないから。
それでも光さんがいては進まない依頼に孝さんは俺を連れて事務所を出た。

「ルーには呆れるな」

近くのカフェに入って孝さんの一言目。

「もう少し成長したと思っていたが」

父親みたいな台詞につい笑いそうになる。
いや、笑ったら怖いから必死で我慢したけど。

「今日のルー、何か違う気がする」
「それは神崎光が昔の知り合いだからな」
「なに、もしかして好きだった系? だから頭上がんないとか」
「いや…バレるのが怖いんだろう」

バレるって…何が?

「それより依頼だ。柏木卓也はこの前の依頼主だったな」

俺が首を傾げるや否や話題を変える孝さん。
追求を許さない態度に俺も慌てて気を引き締めた。

「恋人を騙している男に"仕返し"してくれって依頼だった」

そう俺たちは依頼を遂行した。
光さんのパパとやらに"仕返し"をしたわけだ。
柏木卓也の思惑通りに二人は別れたのに今度は光さんが柏木卓也に"仕返し"を依頼。

「柏木卓也って…光さんのこと好きなんだろ、だから愛人なんて関係やめさせたくて"仕返し"したんだよ」
「普通に考えればそうだろうな。だが神崎光は"仕返し"してやりたい程憎いらしい。可哀想にな」

その台詞に俺は目が点になった。

「なんだ、」
「あ、いや孝さんも人のこと可哀想、とか思うんだなあって思って」

今度は孝さんの目が点になった。

「慈悲深いからな」

ふっと笑う孝さん。
その表情はどこかルーに似ていた。






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