プロローグ


突然だけどこれまでの俺を説明しよう。

俺は少し特殊な家庭で育った。
子供ってそういうネタに敏感だ。

「お前んち、パパが二人いるんだろ?きもちわるー」
「お前もそっち系?」
「近寄るな。伝染る」

つまり苛め。最後には伝染病扱いが当たり前だった。
でも俺はなかなか立派に中学を卒業したと思う。
俺はパパたちを愛していたし、自分の家庭が異様だなんて思わない。今どき頭固いな、なんて内心いじめっ子を見下してた。
そうすれば苛めにも平然と耐えられた。

でも一つ言わせてほしい。
いじめられっ子だろうがパパが二人いようが、俺は真っ当のノーマル。ないものねだりというか、やっぱり女とウキャキャするのが憧れだったりする。

「あー…憧れのウキャキャは一体どこに、」

なのに俺は男子校に来てしまった。
華やかな入学式さえ見渡す限り男、男、男でむさ苦しい。
それでもわざわざ他県に進学したのは、誰も俺の家庭内事情を知らない場所で、何も気にすることなく華の高校生活を送りたかったからだった。

入学式のあとになぜか授業はなく、寮の説明会があった。同室の人と慣れるようにと早めに終わった。

荷物を片付けている同室のやつは、ぽっちゃり体型だ。
丸々してるとこを気にしなければ可愛い顔してるけど、やっぱりどこから見てもぽっちゃりだ。
夏とか暑そうだな、
そいつが話しかけてくるまでは、そんなくだらないことを考えていた。

「ねえ、僕のこと覚えてる? いじめられっ子の陽くん」
「は…い?」

俺へのいじめが始まったのは幼稚園。家庭ネタで散々苛められた。
たしか幼稚園のリーダー的存在が太田っていう金持ちで性格悪いデブで。

「まさか…おま、お、太田…?」
「今ごろ気づいた? まぢとろーい」

ぽっちゃりは頬を盛り上がせて嫌な笑みを浮かべた。
夢見た苛めのない華の高校生活が一気に崩れていく。
俺は焦りながら荷ほどきするが、嫌な汗をかいた手ではなかなか進まない。
後ろでけらけら笑うぽっちゃり。
どんどん自分が小さくなっていく感覚に襲われる。
そんな中やっとガムテープが剥がれた段ボールを開いた。

「、なんだこれ」

段ボールの中は液体が入ったピンク小瓶が大量に入っている。
なんだ? これは、俺のじゃない。

「…これ、お前の? なんだよ、これ」

荷物係が俺のと入れ違えたようだ。
ぽっちゃりは一瞬焦ったような表情を見せたけどすぐ強気に戻った。

「っ、見ちゃった? それさ、媚薬なんだよねー。ここ、男だらけで退屈だからそーゆーの欲しがる人多いんだよ」

俺はおかげでにやつく口を隠す。
大丈夫だ。こいつさえ押さえてしまえば。

「へーこれで小遣い集め? これってバレたら退学ものじゃないか?」

ああ笑いが止まらない。
きっと俺を睨むぽっちゃりに胸がすうっとする。

「黙っててほしけりゃ、言うこときけよ?」

よし、これで明日から楽しい高校生活だ!





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