ほうら、君の望んだ通り
はあ…と溜め息を吐く。今日で何度めの溜め息だろうか。 どうにも嫌なことがあるといつもこうだ。 心の中に溜まった黒くて淀んだ重々しい感情を少しでも吐き出してしまいたくてまた一つ吐息を零した。
「溜め息ばかり吐いてると幸せが逃げちゃいますよ」
独特な笑い声と共にそんな言葉が頭上から降ってきた。 首をわずかに上げると、にこにこと微笑んでいるお面屋さんが私の目の前に立っていた。
「…こんにちは、お面屋さん」 「そんな暗い顔をしてどうしたんです。ナマエさんらしくないですね」 「私にだって気分が沈んでるときぐらいあります」
ふんふんと相づちを打ちながらお面屋さんは背負っていた荷物を下ろして私の隣に座った。 日が暮れてきた公園にはもう子供の姿はなく、私とお面屋さんしかここにはいない。 公園の静けさを吸い込んでまた吐き出す。
「ねえ、お面屋さん」 「なんでしょう」 「私にも幸せをください。小さい幸せで構いません。幸せのお面屋さんならこれくらいのお願いどうってことないでしょう?」 「うーん…そうですねぇ」
神妙な顔つきでお面屋さんは呟いた。 がさごそと大きな荷物の中に手を突っ込んでお面屋さんは難しい顔をしていたが、ふとその動きを止めた。
「ナマエさん、ちょっとワタクシを見てください」 「えっ…?いきなりどうしたんですか」 「この商売柄、人の顔からその人の感情を読み取るのは得意なんです」 「…本当に分かるんですか」 「ワタクシを信じなさい。それにそうした方がナマエさんの望む物をあげれますしね」
半信半疑ではあるがあまりにも自信あり気にお面屋さんが言うものだから、そうしてみることにした。 しかし、なんだか目を合わせるのが怖くて私はお面屋さんの首筋ばかり見ることしかできなかった。そんな私の顔を見るお面屋さんに心の内側まで見られているような感覚に私はなんとも言えずにただ体をすくめた。
「なるほど」 「結局分かったんですか」 「えぇ、それはもうばっちりと」
そう言ってお面屋さんは微笑んだ。 そして、その両手で私を彼の懐へと引きずり込んだ。
「うわっ…い、いきなり何するんですか…!」 「ナマエさんは気負いすぎです。もっと気楽に生きてもいいものですよ、人生なんて」 「っ…!」
思考が霞むのと同時に目頭に力が入り、喉がかすれた様に鳴る。
「辛い時は思う存分泣いてください。そうした方が楽になれます」
ゆっくりと背中を撫でられて、心の中のわだかまりがすーっと消えていく。 零れ落ちていく様々な思いを見られないように、私はお面屋さんの肩口に顔を埋めた。
お面屋さんの夢がないからついカッとなった ただの俺得です
お題お借りしました 泣殻
(12/04/20)
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