「遠藤さん!とりっくおあとりーと!」
「は?なんだって?」
「とりっくおあとりーとです!」

両手を遠藤さんに差しのべてお菓子を強請ると、遠藤さんは呆気にとられた表情で広げられた両手と私の顔を交互に見比べた。それから、あぁそういうことか、と声を漏らした。

「お前発音悪いな」
「うっ、外国の言葉なんですから仕方ないじゃないですか、!そういう遠藤さんは言えるんですか!」
「trick or treat」

非の打ちどころのない発音が返ってきた。うぅっ、悔しい…。項垂れている私を見た遠藤さんはけらけらと笑って、鑑賞していたであろう骨董品を丁寧にテーブルに置いた。それから棚の引き出しを開けてごそごそと何かを探し始めた。どんなお菓子をくれるんだろうとわくわくしながら待っていると、華やかな包装紙に包まれたお菓子を数個手に乗せて遠藤さんが戻ってきた。

「これで満足か」
「わあい!ありがとうございます!」

遠藤さんからお菓子を受け取り、踵を返す。次は誰からお菓子を貰おうかと考えていると、片腕を強く引っ張られた。

「何処に行くんだ?」
「えっ、他の人にもお菓子を貰おうかなぁと」

にやり、と遠藤さんの口が弧を描いた。と思ったら、あっという間に遠藤さんが近づいてきて、それからちゅ、というリップ音が鼓膜を揺らした。

「菓子をやっただけで俺が名前を返すとでも?」
「え゛っ、でもまだ昼間ですよ、!」
「それがどうした」

反論する私の口は遠藤さんによって再び塞がれてしまった。



それだけで終わるでも?
(こ、腰が痛い…)
(そんなんでよく盗賊なんかやってられるな)
(私の専門は諜報なんです!)



(12/10/31)



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