遊戯王 | ナノ



愚者たちのノクターン





きりきりきりと外で虫達がそれぞれ思うままに歌っている。それらの音に調和できないような音も混じり合っていささか不協和音と化してしまっているが。それにしてもまったくもって手持無沙汰だ。苛々ばかりが募っていく。舌打ちしてみるが、目の前の彼女はお構い無しという感じで黙々と作業を続けている。あぁ、つまんねぇ。

「おい」
「なに?どうかしたの」
「…俺にも構えよ」
「今忙しいから後でね」

俺のことを見もしないで名無しは淡々と答えた。再び鋭く舌打ちが漏れる。何だってんだ。久しぶりに2人きりで過ごすというのに、名無しは嬉しくねぇのか。俺を構えよ。いつまでそんなもんを弄ってんだ。面白くねぇ。デッキの調整ももう終わらせてしまったし特にやることがない俺は構ってもらいたい一心で何か面白い話題がないかと必死に脳を働かせる。あぁ、そういえば今TVで騒がれているニュースがあったな。興味など一切ないが、名無しの興味を誘えるなら、と思い話題を振ることにした。

「なぁ、そういえば、お前の学校で失踪者が出たんだろ」
「そうみたいだね。まぁ、別にどうでもいいんだけどさ。私あの人好きじゃないし」
「…へぇ」

蔑むような名無しの声色と共にぐちゃり、と何かが潰れた音が飛び散る。べちゃっと音を立てて名無しの手からこぼれ落ちたそれが床にシミを作った。くそが、なんでこいつばっかり、!ずるい。名無しは未だに俺に構ってくれそうにないのに、こいつだけ構ってもらうだなんて不平等だろ。俺達付き合ってるんじゃねぇのかよ。それなのに、なんだこの仕打ちは、!

「ふざけんな…っ!」

足を振り上げて靴底でしっかりと踏み潰すと耳障りな音が転がった。あぁ、胸糞悪ぃ。

「あれ、Wも嫌いだったの?」

きょとんとした顔で名無しは俺の顔を見た。やっと、俺の方を見てくれた!たったそれだけのことなのにあまりにも嬉しくて、また足を振り下ろす。白いズボンにもシミがついてしまったがそんなのもうどうでもいい。

「あぁ、嫌いだよ。これがいなければ今頃俺は名無しに構ってもらえてたんだ」
「ふふっ。Wってばそういうところ可愛いよね。大好きだよ」

ぶわっと顔が熱くなる。いきなり、何を言い出すんだ馬鹿。照れるだろ。飽ーきた、と呟いてようやく名無しが立ちあがった。汚れちゃったなぁと名無しが顔をしかめる。確かに、露出しているほとんどの肌が汚れてしまっている。これでは名無しの白い肌が台無しだ。

「一緒に風呂入るか」
「わーいっ入りたい入りたい!」

ぱああっと顔を綻ばせて名無しは言った。俺に下心があるだなんて微塵も思っていないんだろうなぁ。こいつ、意外と純情だから。歪んではいるけど。

「そういえば、こいつ、失踪した奴に似てねぇか?」
「えーそうかなぁ」

原形を留めていないそれは男女の区別さえできそうにない。これ、公園にいる鯉の餌にしてあげるんだぁと満面の笑みで名無しは言った。害悪はこうしたほうがいいって名無しは言ってるけど、お前、本当は人殺したいだけだろ。でもお前のそういうところも好きだよ、俺は。






二万打企画に投下するつもりだったけどお題に該当するような話じゃなかったのでこっちに。
甘い夢とか久しく書いてない気がする。
砂糖一瓶入れたような話も書きたいですね…。

(12/08/08)



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