遊戯王 | ナノ







壊れる程の愛を頂戴




「…」
「…」

用があるって言ったくせにどうしてこの女は何も喋らないんだ。
目の前の女…名無しはずっと俯いて無言のまま。
時折、何かを言おうとして僕を見るが再び俯くの繰り返しだ。
僕に伝えたいことがあるって言うから、十代から離れてここにいるっていうのに。
こんなことになるなら十代と一緒にいればよかった。

「で、僕に伝えたいことって何なんだい」

溜め息混じりに僕からそう尋ねると、名無しはびくりと肩を震わせた。
そして、そろそろと僕に視線を向けてきた。
小動物のようなその仕草を僕はどこか観察するように眺める。

「あのね…、その…ユベル…」

ぽつりぽつりと話しだした名無しに僕は相づちを打つ。

「好き…なの」

そう名無しは言った。
聞き間違えてはいない。
確かに、名無しはそう言ったのだ。
どろり、とした重々しい感情が僕の中に溢れ出た。
そんなこと、僕に言ってどうしたいんだろう。
僕が十代のことを愛しているのを知っていながら、僕にそんなことを言うだなんて。
思わず唇を噛み締めるとぷつりと切れた傷口から血が溢れ、口内を侵食していく。

「…それは、僕じゃなくて十代に言うべきじゃないのかい」
「…えっ…?」
「僕にそんなこと言っちゃったら、嫉妬のあまり君を殺すことだって有り得るんだよ」

十代に言ったって、僕は君を殺しちゃうだろうけどね。
そう言いたいのを飲み込んで、僕は名無しを見た。
すると、名無しはあたふたとしながら口を開いた。

「ちが…違うよ…!十代くんのことじゃなくて、私…私は…ユベルが好きなの…!」
「…へぇ、僕のことがかい…」

…とんだ勘違いをしたものだ。
それにしても…僕のことが好き、だなんてねぇ。
思わず笑ってしまうと、名無しは眉間に皺を寄せた。

「な、なんで笑うの…!私、本当にユベルが好きなんだってば…!」
「ふふふ、ごめん。まさか名無しが僕のことを好いてるだなんて思ってもいなくてねぇ」

困ったように、もう…と漏らす名無しの隣に移動する。
彼女の頬へと手をのばし撫でると、甘えるように名無しは頬をすり寄せてくる。

「…でも君も知ってるだろうけど、十代以上に君のことを愛することはできないよ」
「いいのよ。私は十代のことを愛してるユベルが好きだから」

ふーん、と返事を返した僕は名無しの頬へと爪をたてた。
僕の鋭利な爪が柔らかい頬の肉に浅く突き刺さり、血が細長く名無しの頬を滑った。

「僕の愛は歪だけど後悔しないのかい」
「ふふっ、私はそのユベルの愛し方で愛されたいのよ」

そう言って微笑む名無しがあまりにも滑稽で愛くるしかったから、まだ血の味が残る唇でその小さな唇を塞いでやることにした。










ユベルちゃんが可愛くてたまらん

(12/03/21)