おだい | ナノ



キスは目を閉じてください


重々しい音と共に教会の扉が閉まった。
片手に持っている買い物袋を握りなおす。
くしゃくしゃと擦れる音が静かな教会の中の空気に吸い込まれていく。


周りを見渡すと、一番前のベンチに誰かが座っている。
真っ黒な髪を持つその人は何かを考えているのだろうか。
少し俯き気味なその後ろ姿に私は近づいていく。
するとようやく私に気付いたようで、くるりとこちらを振り返った。


「名前さん…あの…」


弱弱しく牧野さんが私に声を掛けてきた。
しかも顔が仄かに赤くなっている。


「どうしました牧野さん。体調悪いんですか?」
「いえ、そうじゃ、なくて…」


言いよどんで牧野さんは俯く。
さっきよりさらに頬が赤くなっている。


「熱でもあるんじゃないですか?ちょっとおでこ触らせて下さい」


ベンチに腰掛けている牧野さんの隣に腰を下ろして、ついでに買い物袋も端っこに置いた。
牧野さんに向き合って、おでこへと手をのばす。
あと少しで届くというところで手が動かなくなった。
手首を見ると牧野さんの手が絡みついている。


訳が分からない。
そういう顔をしてたんだろう。
牧野さんがあたふたしながらすみませんと謝った。
それでも私の手首にはまだ牧野さんの手が残っているのは何故だろう。


「名前さん…!」
「…なんですか」


牧野さんを見つめる。
なんだかいつもと違う雰囲気に少し困惑する。
一体どうしたんだこの人は。
するり、と牧野さんの手が動いて私の手を掴んだ。
牧野さんの両手が私の手を包み込む。


「名前さん…!き、き……す!」
「はい…?」


ぎゅっ、と牧野さんの手に力がこもる。


「キス、しましょう!」


思考が停止する。
何か言おうとしても声にならない。
一気に顔に熱が集まるのが自分でも分かった。
そんな私を見て牧野さんははにかんだ。


少しずつ牧野さんが近づいてくる。
心臓の音が騒がしい。
瞬きすることも忘れた。
呼吸することも忘れた。
目の前の牧野さんをただ見つめていると、牧野さんの視線と絡まった。
すると、恥ずかしそうに苦笑した牧野さん。
その表情で心臓がさらに動きを速める。


「あの、目、閉じて下さい」


言われるがままに私は目を閉じた。
真っ暗になった視界の中で牧野さんの体温を感じる。
もう片方の手を牧野さんの手の上に重ねた。
それとほぼ同時に唇を塞がれる。


数十秒後にリップノイズの音がして、牧野さんが離れた。
恥ずかしいやら嬉しいやらでまた顔が熱くなった。
ちらりと牧野さんを見ると、くつくつと笑っている。


「何笑ってるんですか…!」
「いや、可愛いなぁと思って」


未だに笑っている牧野さんの目を手で隠して、今度は私から彼の唇を奪ってやった。








11/06/16
牧野さんといちゃこらしたい←






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