歩くたびに地面を覆っている赤い水が私と牧野さんの足に重く絡みつく。 サイレンが鳴り響いている。 それに混じって化け物達の笑い声が私達の耳を揺さぶってくる。 「名前さん、近くに…」 横を見ると、怯えた表情の牧野さんが目に映った。 こくりと頷いて私は手に持った鉄パイプを握り締める。 次で何人目だろうか。 何気なく視線を下に向けると、おびただしい血痕が衣服に染み付いている。 牧野さんをチラリと横目で見ると、いつもの姿のままだった。 そのことに安心する。 思わず口角が上がりそうになるのを私は慌てて抑えた。 何処からともなく雄叫びの様な声が空気を振動させた。 それと入れ替わる様に牧野さんのか細い悲鳴が上がる。 突如林の中から現れた人間らしき人影。 やはり両目から涙が頬を伝っている。 化け物の両目から零れた赤い雫が足元の赤い水面へと落ちていく。 甲高い声で笑いながら右手を牧野さんへと向ける化け物。 その瞬間私の体が硬直する。 化け物の手が握っている黒光りするモノは牧野さんの胸を真っ直ぐと狙っている。 「っ…!牧野さん!!」 化け物の視線が私の方へと動く。 その僅かな瞬間に私は牧野さんを突き飛ばした。 パアン! 発砲音がサイレンに交わって消える。 牧野さんの絶叫がサイレンに混じって消える。 全身から力が抜けて私は地面に倒れた。 赤い水が激しく波立った。 ひゅー、ひゅー…と息をする度に口に水が押し寄せてくる。 全身が鈍く痛み、鳴り響くサイレンが頭を押し潰すかのように圧し掛かってくる。 堪え切れずに喉の奥へと水を押し込む。 すると次第に――。 地面に倒れ込むと同時に乾いた銃声が私の耳をつんざいた。 目の前で倒れていく名前さんの体。 赤い水に包まれていく名前さんを呆然と見つめる。 言葉にもならない叫びが口から溢れた。 ぼろぼろと両目から零れていくそれは、次々と赤い海に吸い込まれていく。 咽び泣く私の額に、コツン、と堅い何かが押さえつけられる。 それを振り払うこともせず、私はその指が引き金を引くのを待った。 そして二人はサイレンの音で目を覚ます --------------- (11/10/02) |