ほらー | ナノ







仕事が一段落した午後4時過ぎ。
この羽生蛇村に一軒だけの医院の院長である宮田は椅子に座ったまま大きく背伸びをした。
先程看護師が運んで来てくれたコーヒーへと手をのばすと同時に院長室のドアがノックされた。
ドアが少しだけ開いてそこから看護師の顔が覗き、

「宮田先生、患者さんです。診察お願いします」
「あぁ、分かった」

目の前にあるカルテから目を離さずに宮田がそう答えると、看護師は静かにドアを閉めて行った。
机に置いてある聴診器を手に取り、首へ下げる。
ひやりとした感触が消え去る頃には宮田は診察室のドアを開けていた。

器具やら何やらを準備し、机の上に置かれているカルテへと目を通す宮田。
見知った名前が書かれているそれを見て、僅かに心臓の動きが速まるのを宮田ははっきりと感じた。
妙に顔が熱いように感じ、宮田は緩やかに息を吐き出す。
そんな宮田のところへ診察室のドアがゆっくりと開き、看護師に支えられて患者が入ってきた。

「あの、わざわざすいません…」
「これくらい気にしないで下さ。、そこにある椅子に腰掛けましょう」

患者用の椅子へとその患者を座らせ、看護師が宮田の方へ振り返る。

「それでは宮田先生、この方の診察をよろしくお願いしますね」

微笑を浮かべてそう言い残した看護師は診察室から出て行った。

「し、司郎くん…久しぶり…!」
「捻挫したらしいが…何やってたんだ、お前は」
「うっ…せっかく会ったのに挨拶もなしなの…?」

しょんぼりと肩を落として呟く患者…名前は若干涙目になりながら宮田を見つめるが、宮田はその視線を軽くあしらって相手にもしない。

「えっと…夕焼けが綺麗だったから見ながら歩いてたら歩道から滑り落ちゃった」
「本当お前は昔から馬鹿だよな」
「ば、馬鹿じゃないよ…!おっちょこちょいなだけなんだから…!」
「言い訳はいいから足首見せろ」

名前のズボンの裾をたくし上げて赤く腫れ上がった足首をじっと見つめる宮田。
そっと足首へ手を触れるとびくり、と名前が体を震わせた。

「靭帯が損傷してるみたいだな…。この怪我でどうやってここまで来たんだ」
「ちょうど石田くんが通りかかって…パトカーでここまで運んでくれたの」
「…」

じくりと胸の奥が疼いた様に感じられた。
彼女の携帯には俺の電話番号が入っているはずだ。
呼んでくれれば迎えに行ってやったのに。
思わず舌打ちしそうになるのを抑えて俺は下唇を噛みしめた。

「あの…司郎くん…ごめんね」
「…何がだ」
「今、休憩中だったんでしょ…?せっかく休んでるのに、来ちゃって…」
「気にしなくていい。怪我人を見るのが俺の仕事だ」
「でも…」
「ギプスをするから、靴と靴下脱がすぞ」

名前の言葉を遮って宮田は椅子から立ち上がった。
おろおろと視線を動かす名前の足元にしゃがんで宮田は靴に手をのばす。
なるべく痛みを与えないように脱がしたのだが、名前が微かに息を飲む音が静かな室内に響いた。
この赤く腫れ上がった患部を思いきり掴んだら、名前はどのような表情をしどのような声を上げるのだろうか。
ふと湧き上がった欲求を落ち着かせて、宮田は棚から包帯やらギプスやらを取り出して、手際良くそれらを名前の足首周辺に巻いて処置していく。

「できたぞ」
「あ…ありがとう、ございます」

余った道具を棚に戻したと同時に溜め息が漏れた。
後ろで名前が身じろぎしたのを感じる。

「どうしてそんな…」
「…えっ…?」

思わず言葉が口から溢れた。
はっとして、何でもないと誤魔化す。
やりきれない思いが俺を襲う。
昔はこんな雰囲気じゃなかったはずだ。

「家まで送っていく」

机の上に置いてある車のキーを手に取り名前へと向き直ると、きょとんとした表情の名前。

「えっ…いいよ…!仕事あるのに…!」
「今日はもうあらかた終わったんだ」

でも…と口ごもる名前へと近づく。

「その足じゃ家まで帰れないだろ」
「うぅっ…そうだけど…でも…」

まだ何かを言おうとした名前の頬を両手で掴んで、そして名前の口を塞いでやった。
放心している名前を体を担ぎあげて、診察室のドアを開ける。
我に返った名前の叫び声が静かな院内へと響き渡った。








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宮田先生がログアウトしました(白目
アンケでコメントを頂いた幼馴染で気弱な夢主を目指したのですが、如何でしょうか…
気に入っていただけると幸いです

(11/12/21)

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