「ねー」 「…」
私が声を掛けると目の前の彼は重そうな兜を被った頭をかしげて私を見た。
「…寒い」
そう言いながら私は両腕で体を抱き締めた。 空気がだいぶ冷え込んできている。 初秋になり一気に肌寒くなったこの季節に上着を着ていないのはかなり辛い。 今日はサイレンが鳴ったと同時に私は教会を飛び出したので、すっかり上着を着てくるのを忘れてしまったのだ。 思わず手で体を擦ってみるが寒いことに変わりはない。
すると突然耳障りな金属音が部屋の中に響いた。 視線を彼に向ける。 彼はさっきからずっと手入れをしていた大鉈を壁に立て掛けたようだ。
こっちへ来い、と言っているのだろう。 彼の片手が私に向かって小刻みに動いた。
私は手招かれるまま彼の所まで歩いていく。 そして彼の真正面に立った。 あまりじろじろと彼を見るのは恥ずかしいので私の視線は足元で固定されている。(少しでも視線を上げると彼の逞しい上半身が目に飛び込んでくるのだ) 次に彼の片手はぽんぽんと自身の膝の上を軽く叩いた。
「えっと…。す、座れってこと…?」
肯定するように彼の手が私の腰へとのびてきてぐっと力を込められた。 彼にしたらさほど力を込めたわけではないのだろうけど、私にしたら結構な力だ。 思い切り彼の膝に腰を降ろしてしまったのだが、彼はまったく身じろぎもしない。
私の腰を掴んでいた彼の手は今度は背中へとのびてきた。 そして、またぎゅっ、と力を込められた。 普段の彼からは想像出来ないくらいの優しい力加減で抱き締められる。 彼の体温が服越しに伝わってくるのが分かる。
きっと今の私の顔は真っ赤だろう。 先程まで冷えていた体は今では湯気が出そうな程にまで体温が上昇している。
「あ、ありがとう」
上擦った声でそう彼に呟く。 兜の奥から低いくぐもった笑い声が聞こえたような気がした。
ゆるやかに交わる鼓動
--------------- 10000hitアンケート作品 映画版▲様。 お気に召していただけたら嬉しいです…!
お題お借りしました。 泣殻
(11/09/22)
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