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 ――夢を見た。とてもとても、長い夢を。





 目を開けると、眼前には夕日を受けた荒野がただ広がっていた。さらに遠くへ視線を移すと、遥かな地平線が臨めた。

 彼女は、荒野に一人佇んでいた。

 自分で歩んできた記憶は無い。しかし、彼女は確かに自らの足で大地を踏みしめていた。

 彼女は自分の両手を眺めた。赤い液体に濡れた手。明らかに自分のものではないそれに、彼女は首をかしげる。

 ――酷い耳鳴りがする。

 心なしか頭も傷む。

 風の音が五月蝿く聞こえた。一人佇む彼女は、世界に拒絶されている錯覚を受けた。

 耳を閉ざし、その場に踞る。

 ――五月蝿い。

 彼女は考えた。何かを必死に考えていた。

 その時、不意に彼女を照らしていた夕日が遮られた。

 視線を上げると、肌色をした何かが見えた。とても大きい何か。

 彼女がさらに視線を上げると、そこには彼女を覗き込むように踞る、大きなヒト型の何か。

 大きな何かは、踞った体勢から四つん這いになり、大きな口を開けて彼女に迫った。



『――…しらない』



 こんなものは、しらない。










 今回の壁外調査では、巨人との遭遇がいつもより少なかったように思う。

 それでも犠牲になった兵は少ないとは言えず、皆一様に重苦しい空気を纏いながら馬を走らせていた。

 壁内まではまだ距離がある。日没までには壁内にたどり着きたいところだ。

「―――ん?」

 順調に馬を走らせていたエルヴィンの目に、荒野の一点に巨人が数体群がっている様子が映った。

 班員に目配せし、信号弾を射つように促す。

 壁外調査は、巨人討伐が目的ではない。兵を無駄に犠牲にしないためにも、ここは上手く回避すべきだ。

 そう思っていた刹那、巨人が群がっていた一点から赤い飛沫が舞った。

「兵長!あれは……!?」

「……放っておけ」

 あの飛沫の規模を考えると、恐らくあれは巨人のものだろう。

 巨人が共食いをするなど聞いたことはないが、巨人同士の争いが生まれたのだろうか。それとも、誰か人類があの場で戦っているのだろうか。

 気がかりではあったが、この平地では立体機動は十分に機能しない。

 機動力無くして巨人に挑むなど、自殺行為でしかない。

 団長を見やれば考えは同じのようで、真っ直ぐに壁への道程を見据えていた。

 団長が壁への道を示しているのだから、自分にこれ以上言うことは無い。

 最後に巨人の群れを一瞥すると、そこには蒸気が立ち込めていた。



2013.07.11


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