02
担任の先生は現役アイドルの方らしく、しかもとても売れっ子らしい。メディアに疎い自覚はあったが、まさかそんなに有名なアイドルを知らなかったなんて、我ながら驚きだった。
「まさか、あの月宮林檎を知らないとは……この学園じゃ天然記念物的存在ね、あんた」
隣でトモちゃんが大袈裟に肩を竦めて驚きを表現する。……そこまで言わなくてもいいじゃないですか。
ちなみに、成り行きでトモちゃんを含む例の五人組と仲良くなった。七海春歌ちゃん・一十木音也君・聖川真斗君・四ノ宮那月さん。
ハルちゃん以外はみんなアイドルコースらしく、成る程アイドルらしいキラキラした人達だなと思った。ハルちゃんも可愛いしアイドルコースかと思ったのだけど、作曲コースらしい。
「何て言うか、これでもかってくらいメディアに疎くてですね……テレビはあまり見ないし、新聞は頭痛いし、雑誌も見ないし、ネットもあまり利用しないので……」
「現代でこんなにメディアに触れない人って珍しいよね」
一十木君、結構はっきり言いますね。
事実、機械音痴な上に文明の発達に私の知識が追い付いていけず、友人に「おばーちゃん」というあだ名をつけられたりもしていた。食の好みが渋いせいもあるが、確かにおばあちゃんっぽいと自分でも思う。
さすがにもう、おばあちゃんは卒業しよう。私はそう決意した。
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「さて、面倒くさい話はみんなも飽きてきた頃ですし、お待ちかねの自己紹介タイムにしましょう!」
そう言うと、月宮先生は楽しそうにランダムに生徒を指名していく。
(ランダムとか辛い……心の準備が……だって何言えばいいの何すればいいの!?)
「ちなみに、何か特技とかも披露してね」なんて先生が言うので、クラスメート達は各々歌や楽器演奏を披露していく。一十木君はギターと歌、聖川君はピアノ、四ノ宮君はヴィオラ。
みんな凄く輝いていた。
冴乃はと言うと、何故倍率200倍のこの学園に受かったのかが不思議でならない程の凡才。人様に見せられる物なんて無い。
大して歌もダンスも上手くない。ルックスは中の下程度(か、それ以下)。それに愛嬌がいいわけでもない。
自分で言って悲しくなるくらい、アイドルに程遠い存在。
(どうして受かったんだろう……いや今はとにかく自己紹介タイムを乗り切る方法を……ーーー)
「はーい、じゃあ次、行平冴乃ちゃん!」
一人で悶々としている間に、ついに冴乃の番が来てしまった。
「え!?あの、えっと……行平冴乃です。アイドルコースで……その……」
「そんなに緊張しなくてもいいわ。みんなに何か披露する自信が無かったら……そうね、何かみんなに言っておきたいことをズバッと一言お願い」
冴乃があまりにどもっていると、月宮先生が助け船を出してくれた。ただ、ズバッとと言われても正直困る。
みんなに言っておきたいこと。
そう言われると何となく思い浮かぶことはある……が、どうにも勇気がない。
思わず視線を手元に落とすと、隣の席で音也が声を出さずに何か言っていた。
『 が ん ば れ 』
そして、冴乃の反対隣を指差す。そちらに視線を移すと、友千香が同じように口の動きだけで「がんばれ」と言ってガッツポーズをしていた。
人見知りが激しく自分から周りに関わっていけない冴乃にとって、彼らと出会えたことがこの上無い救いに思えた。
一つ大きな深呼吸をして、意を決して口を開く。
「……人見知りが激しくて、今はその、こんなですけど……馴れればわりとみんなとわいわい騒ぐタイプです……よろしくお願いします」
なんとかそこまで言い終えて、会釈程度に頭を下げて席につく。
励ましてくれた二人を見ると、二人ともVサインで答えてくれた。
ーーとても優しくて楽しい人達だから、馴れるまでにそんなにかからないと思う。
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その後、春歌と友千香も自己紹介を終え、月宮先生が話を変えるように手を叩いた。
「では、クラスメート達がどんな人かわかったところで。大事な大事なパートナー決めをしまーす♪」
そう言って、月宮先生が何処からか赤い紐の束を取り出した。
「はい、パートナーはくじ引きで決めまーす!運命の赤い糸が、みんなを最高のパートナーと結びつけてくれるからね♪」
微かにクラスにどよめきが広がる。結局自己紹介から繋げる意味が皆無な決め方だからだが、月宮先生は有無を言わさぬ手際の良さで生徒達をアイドルコースと作曲コースに分け、それぞれの紐の端を持つように指示した。
「あれ、でもこのクラスって……」
「ほら、冴乃も早く!」
友千香に急かされ、冴乃も慌てて紐の端を持つ。
「みんな持った〜?」
月宮先生がぐるりと生徒達を見回した。そして満足げに微笑むと、紐を束ねていたリボンを解き、バラけないようにまとめて床に置く。
「せーので紐を引っ張ってね。同じ紐の端を持っていた相手がパートナーよ!いーい?せーのっ!!」
月宮先生の元気のいい掛け声でみんなが一気に紐を引く。
所々紐が捻れるなどの事故はあったものの、ほぼ問題も無くパートナーが見付かった。
ただ一人を除いて。
「あれ?リンちゃーん、行平の紐、半分しか無いけど?」
音也が冴乃の手に握られた紐を見て、月宮先生に質問する。
冴乃の持つ紐は誰かと結びつけること無く、だらりと床に垂れ下がっているだけだった。
「あら、あなたが当たったのね〜」
「……みたいです」
クラスの人数が奇数だったのは覚えていたので、こうなる可能性があるとは思っていたのだが、これから一年共に過ごすパートナーがどうなるのかを考えると、不安が募る。
「そういや人数奇数だったか……じゃあ、この子のパートナーはどうすんのよ?」
友千香が冴乃に寄り添うようにして言う。知り合ってまだ一日も経たないが、こうして他人を心配することが出来るのは彼女の美徳だろう。
「ああ、大丈夫よ。シャイニーが…ーー、」
「meにお任せなサーーーイ!!」
先生の言葉が遮られたかと思うと、黒板が炸裂した。
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