俺の居場所はここなんだ。

ずっと一緒がいいね

俺は部活が終わって、いつものように校門で空を待っていた。
でもいつもの時間に空は来なかったから教室に行ってみた。
どーせ文化祭の出し物の練習でもしてるんだろ?
あと1ヶ月後に文化祭を控えている俺の学校は、お祭りムード一色だ。
俺のクラスの出し物は劇で、しかもなにがあったかわからないけど空が姫役をやることになったから俺は自ら王子役を買って出た。
だってキスシーンがあるんだぞ?
俺の空の唇をほかの男に奪われてたまるもんか!
そんなことを考えながら廊下を歩いていたら教室に明かりがついていることに気づいた。
思った通りだぜ、きっと空もいるはずだ。
でもほかのクラスは電気がついてないどころか誰もいないのに。
それも俺のクラスにだって人がいる気配がしない。
そこで空の声がした。
「王子様、行かないでください!」
「姫、私は行かなければならないのです。」
そして空に返事をする人がいた、ヤマトだった。
俺の代わりに王子役をやってくれてるのか。
よし、今日は3人で帰ろう。
そう思って教室の中を見てみると、空が俺に背を向けて立っていてヤマトはひざまずいて空の手に軽くキスをした。
うわっ、俺、あんなことしなきゃいけねーのか。
立ち上がったヤマトは言った。
「姫、私はいつかここに帰ってまいります。そのときまで、どうかお待ち下さい」
「嫌よ、だって人の気持ちはすぐに変わってしまうわ。もし王子様が心変わりなさったら、あたし……」
「では2人の愛を誓いましょう」
「どういうこと?」
そこでヤマトは空の顔を両手で包んで、キスをした。
俺はなにも考えられなかった。
「王子様、愛していますわ」
空はなにもなかったように続けた。
「私もです」
空を抱きしめたヤマトの顔が見えた。
こっちを見て……笑っていた。
俺はどうしたらいいのかわからなくなって無我夢中で廊下を走った。
ひたすら走って、電車に飛び乗った。
ヤマト、あいつどうしたんだ?
俺と空の仲は公認だった、もちろんヤマトにも。
俺が告白するとき1番相談に乗ってくれて協力してくれたのはヤマトだったのに。
……それに空だって。
たしかに俺は劇の練習に出てない。
けど、あさって大事な試合があるんだ。
来週からはちゃんと劇の練習にだって出る。
それは空もわかってくれてたはずなのに……。
一体どうなっちまったんだ?
………。
おとといの練習にも身が入らず、昨日の大会にスタメン入りできなかった俺は今日、いつも通り電車を待っていた。
あれを見て以降初めてヤマトたちに会う。
俺はどうすればいいんだ……?
そんなことを考えていたら空に声をかけられた。
「おはよ、太一」
「空……?」
空は何事もなかったかのようにふるまう。
けど、俺は見てたんだ。
「金曜の放課後さ…」
そう言った途端空は急に慌てだした。
「き、金曜の放課後?!げげげ劇の練習してただけよっ?!」
「誰と?」
「誰とって……」
空は黙りこんだ。
あぁ、やっぱり怪しい。
「誰って、俺だよ」
振り返るとヤマトが立っていた。
「ヤマト!」
「なんだよ?あの日見てたじゃねーかよ」
「ヤマ…」
いらだちがピークに達する。
そしてヤマトは耳元で言った。
「寂しがり屋の姫は、練習に来ない王子よりも毎日側にいる音楽責任者の方がいいってさ」
「!!!」
「さ、行くぞ。空」
「ちょっ…ヤマト?!」
ヤマトは人混みの中に消えていった。
……どうしよう?
俺はどうすればいいんだ?
ヤマトの言ったことがもし本当だとしたら…
そう考えたくない、2人がそんなことするような人じゃないってことは俺が1番知ってるつもりだ。
俺はその日から部活は一切出ないで練習をした。
セリフとかいろいろなことを全く覚えてなかった俺は授業中も台本を読んで必死に覚えた。
「太一のヤツ、必死だな」
「そりゃそうだろ。最近ヤマトと武之内が仲いいんだぜ?付き合い始めたって噂」
「まじか?!」
そんな噂まで流れてんのか……
でも今は王子様を熱演して、空に惚れ直させることが先だ!
それで真相を聞かなきゃな……
放課後の全体練習。
まだあいまいなところもあるけど、だいたいは覚えた。
「太一、すごいじゃない!こんな短期間で覚えちゃうなんて」
「へへ、まあな」
「音楽も完璧だぜ」
「そうか、頼もしいな」
こんな風に普通に会話できるのに。
それでもあのときの話にならないのはどうしてなんだ?
まだなにか足りないものがあるのか……?
そしてとうとうキスシーンの練習をしないまま本番を迎えた。
役者はもちろん監督や道具係などの活躍で舞台はクライマックスへ。
「太一、行きましょ」
「……あぁ」
舞台に立った俺たちは、完全に役に入りこんでいた。
「王子様、行かないで下さい!」
「姫、私は行かなければならないのです。」
俺はひざまずいて空の手に軽くキスをする。
これだけでもドキドキした。
「姫、私はいつかここに帰ってまいります。その時まで、どうかお待ち下さい」
「嫌よ、だって人の気持ちはすぐに変わってしまうわ。もし王子様が心変わりなさったら、あたし…」
「では2人の愛の誓いましょう」
「どういうこと?」
……深呼吸をする。
大丈夫だ、ただのキスじゃないか。
でも久しぶりすぎて。
その唇が、紅くなった頬が、全部いとおしく感じられた。
初めてのキスをした時よりドキドキして…
俺、このまま死んじゃうんじゃないか。
そう思いながら空を引き寄せようとしたら、空がいきなり俺の背中に手を回してきてキスをした。
歓声が沸き上がる、観客席からも舞台裏からも。
「王子様、愛していますわ」
空はいつもより早口で言った。
それを聞いて空も同じ気持ちなんだと確信した。
「私もです」
俺は空を抱きしめた。
空は小さい声で「痛い」って言ったけどむしろもっと力を込めた。
………。
結局舞台は大成功、いつもの間にか噂は消えていて、かわりに『八神夫婦』なんて呼ばれるようになったから空は本気なのか照れ隠しなのか一生懸命否定していた。
まぁ……照れ隠しだろうけどな。
「……で、あの日の放課後のこと、ちゃんと話してくれよな」
帰りの電車の中で言った。
ヤマトと空は顔を見合わせて笑った。
「作戦、大成功だったな」
「そうね」
俺には言ってることが理解できない。
「太一、1週間前になっても練習に来てくれなかったでしょ?みんな困っててたからあたしたちはある作戦を立てたの。」
「それがあの放課後のことだったんだ。空がいつまでも校門のとこに行かなかったら心配して教室に来るだろうと思って……」
「じゃあキスは……」
「してないに決まってるでしょ、もう!」
空が『八神夫婦』って呼ばれたときはとは違って全力で否定してくれたことがどんなに嬉しかったか。
俺は全身の力が抜けた。
「ま、俺がさせてくれって言ってもさせてくれなかっただろうけどな」
「もう、ヤマトってば!」
そうだ、いつもそうだった。
俺が空と付き合ったって変わらないこの関係。
なのに俺、2人を疑っちまった。
「……ごめんな、本当に2人が付き合ってるって疑ったりして」
「そんなこと気にしてたのか?」
「太一のいない間にあたしたちの演技力が上がったってことね♪」
「ヤマト、空……」
2人の顔を見ると安心する。
いつまでもそんな俺たちでいたい。
「…ところで、なんで空からキスしたんだ?台本には俺からって書いてあったのに」
「そ、それは……」
と空が話し始めたときにヤマトが言った。
「早く太一とキスがしたくて我慢できなかったのよ、だったりして」
体が熱くなっていく。
隣を見ると、空も真っ赤になっていた。
「お、図星か」
「やめてよ、もう!!!」
「本当だったら今すぐキスしてやろうか?」
「バカ太一!ここ電車よ」
俺はヤマトと目が合った、そして笑いあった。
空はふくれっつらで「なんで笑うのよ」って言っている。
これからもずっと、こんな風に側にいてくれよな。

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あーやさんとの相互記念に頂きました!
たたた太空ヤマです…!!

劇での太一が初々しくて、こっちまでドキドキしてきました…!
ヤマトが積極的なとこが個人的にツボです(笑)

着かず離れずな3人の関係が好きなので、ピッタリ合っていて嬉しいです

ではでは
素敵な相互文ありがとうございました!





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