07 有名歌手
クルルが地球に来た理由や他のメンバーなどを説明している間、恭は頷いたり、話の確認をとるだけで、余計な事は聞いてこなかった。
じっと、クルルの目を真剣な顔で見て話を聞いていた。
クルルが話し終わり、手に持っていたグラスを置くと、恭は目を大きくゆっくりと一度だけ瞬かた。
「へー・・・そのケロロ小隊っつーのは、アレだな、つまり地球を侵略しに来たんだな」
「…今までの長い説明を聞いてて、それだけしか解からねぇのか?」
「や、ギロロが夏美っていう女の子に惚の字だってことや、タママは実は可愛い顔してバイオレンスだってことや、ケロロは隊長だけど地球侵略してないっつーか、ガンプラが好きなあまりでする気なんか無くって、しかも日向家の家事全般をやらされていて、しかもちゃっかりやっちゃってるってことや、ドロロは影が薄いっていうかそんなキャラだが実は暗殺者のトップだったりすることもよーく、よーーーーっく解かった。
…それにしても、奇妙な小隊だな、変にバランスが取れているっつーか…。」
恭は久しぶりに結構喋った、あー疲れた、といいながらクルルの横に倒れこんだ。
「…で、クルルはすっげぇ嫌な奴だって事もわかったよ」
恭はクルルを横目でちらり、と見ながら言う。
「クーックックッ!その通りだなぁ」
「で、その上」
「ク?」
「実はクルルは一人で居たいオーラを出しながらも実は構って欲しくて仕方ない!そーんな可愛い一面を持っているって事もわかったぜ?」
恭はニヤリ、と笑い、体を反転させ仰向けになりクルルをまるで高い高いでもするように持ち上げた。
「クッ!?おい、放せっ」
クルルはばたばたと手足を暴れて反抗するが、流石に体格に違いがありすぎて、無意味な抵抗だった。
恭はそんなクルルを見てにやにやと笑いながらぽーんと上に放った。
「そぉーれ、高いたかぁーい!」
「クーっ!?」
クルルは急な浮遊感に驚き、恭はあははーと笑いながら何度も上にクルルを投げた。
クルルは抵抗するだけ無駄だ、ということを悟り、抵抗しないでそのまま放られていると恭はクルルが抵抗しなくなったことが面白くなくなったのか高い高いするのを止め、笑いながらクルルを解放した。
「はははっ、そんな拗ねんなよ」
「…拗ねてなんかねぇ」
恭は肘をついて上体を起こし、クルルと目線を合わせた。
クルルは恭の視線から逃げるようにあらぬ方向を向いた、それを見て恭は怒らせちゃったかな?と思ったが、実はクルルは照れているだけで、(可愛い、だなんて!)もしかしたら赤くなっているかもしれない顔を見られたくないからそっぽを向いているだけだった。
「まぁ、拗ねてないって事にしといてやるよ」
恭が笑いながらそう言ったとき、ピンポーンと下で微かなチャイム音が聞こえた。
「あ、睦美かな…ちょっと見てくる」
恭は一瞬誰だこんな朝早くに、と思ったがそういえば睦美を呼んだんだった、と思い出し、クルルに一声かけて玄関まで下りた。
クルルは恭が居なくなった部屋の中で、俺らしくもねぇ、とぽつりと呟いていた。
恭が扉の鍵を開けた。
「お邪魔します」
「おう、アリガト、な。」
今更だよ?と睦美は苦笑して言うと恭はそれもそうだ、とカラカラと笑って言った。
睦美が手に提げていたコンビニの袋を受け取り、中を確認する、中にはレトルトのカレーと恭の好きな飴が数個入ってあった。
「お、ありがとー、気が利くなぁ睦美は」
恭はその飴を一粒とり、ビニールを剥がし口に放り込んだ。
下の上で苺の甘酸っぱい味を楽しみながら恭は睦美を部屋まで案内した。(もっとも、睦美は何度も恭の部屋に来ているので案内されるまでも無かったが)
「じゃ、先にクルルとまぁ、話でもしといてくれな、俺カレー作ってくるから」
「うん、解かった」
恭はひらひらと手を振りながら一階まで階段を下りていき、睦美はクルルに問い詰めないとな、と思いながら扉を開けた。
「で?恭とクルルは…何で知り合ったんだい?」
「あ?昨日言っただろー?面白そうな電波受信したって」
「…アレ、クルルのことだったんだね…」
クルルが大人しく恭の作った(といっても熱湯で暖めただけだが)カレーを食べている間、睦美と恭は布団の上に座り、睦美が買ってきたお菓子を摘みながら話していた。
「睦美もさー、アレだよな、クルルの事話してくれればよかったのによー」
「ごめんごめん、流石に言いにくかったしね、それに一応内緒にしなきゃ駄目だったし」
「まぁ、いいけどよ、別に…」
恭はポテチをバリバリと食べながらケータイを見た。
「・・・・・・あ」
「どうかした?」
「……やっべぇ、今日仕事あった」
恭は手に付いたポテチの粉を舐め取りながらケータイを開く、一通のメールが来ていることを確認するや否や顔を一気に真っ青にさせ、見なかったことにしようか、どうしようか、と必死に普段あまり使わない脳を回転させていた。
「…やべぇよな、コレ……、今行っても…遅刻」
時刻は7時過ぎ、確か楽屋入りは7時だったような気がする。
「…生放送?」
「……YES」
やべぇ、クルルのことで頭がいっぱいで…!仕事忘れてたっ!マネージャーに殺されるっ!
恭は恐る恐るメールを読み、その内容に青かった顔をさらに青くさせてから慌てたようにマネージャーに電話をかけた。
コール音はすぐに切れ、間髪入れずに聞こえてきたのはマネージャーの怒鳴り声、恭はケータイを耳から離しながら恐々と誤った。
「もしもし、………はい…いや、その、…宇宙人を捕獲しまして!…え、嘘じゃないっす!……う、はい、今すぐ行きます!」
ケータイを切ると、恭は苦笑している睦美に向き合う。
「睦美!と、いうわけで!ごめん!後片付けよろしくな!2時間後には戻ってくるから!…クルル!俺が帰ってくるまでじっとしとけよ!」
「はいはい、早くいきなよ、生放送で遅れたらやばいよ?」
「解かってるよ!!」
恭は慌しく服を着替えて鞄を引っ掴みそれだけ言うと部屋を飛び出した。
「…なんだぁ?恭、何処行ったんだ?」
「恭は今売れっ子のアイドル歌手なんだよ、で仕事だったのに忘れてたってワケ。」
そういえば、どこかで聞いたことのあるような声だと思っていたんだよな、とクルルは恭の声を思い出しながら思う。
「クルルも恭の歌、聞いたことあると思うけど」
「へぇ、名前は?」
「KYO、…聞いたことあるだろ?」
「………」
クルルは驚いてしばらく固まる、睦美が言った歌手の名前はクルルが地球に来て初めて聞いた曲を歌っている人で、それに結構好きな分類に入る歌手だったりする。
KYOという歌手は一般的には謎に包まれている、顔もわからないし、血液型も、年齢も、本名さえも全く解からない人だった。
歌を出している物の、ライブ等はしないし、どんなに有名でも音楽番組には絶対に出ない、ラジオのみに出る人だった。
クルルは一度どんな奴が歌っているのか知りたくて探してみたものの、全く解からず諦めていた。
恭が歌う歌は、変わった物が多く、歌、というよりも詩のような物で。
それを作詞作曲しているのが恭自身といったこともあり、ファンの憶測では20代後半ぐらいの男性だと思われていた。
しかし、実際は10代のどこにでも居るような、…あえて言うなら綺麗な男子だったというわけだ。
「恭が、KYOだったなんてなぁ…」
クルルは恭が消えた扉を見ながら呟いた。