05 「…おやすみ、クルル」
恭が片手で髪を拭きながら、後ろ手で扉を閉め、鍵をかけるとクルルは少し身構えた。
「はは、そんなに身構えんなよ、別にお前を捕って喰おう何て思ってねーから」
恭はカラカラと笑って、クルルが座っているベットの近くの椅子に座った。クルルとは1mほどの距離がある、はじめはコレくらい離れていたほうが良いだろうと思った上だった。
「俺は、恭、よろしくな黄色い宇宙人さん?」
「………」
「あん?名前くらい教えてくれたっていいだろ?減るもんじゃねーし」
「…クルル」
この人間は、自分にとって害を成す人間なのかそうでないのか、クルルは図りかねていたが、名前くらいどうってことはない、最期に記憶を消せばいいだけだしなぁ。と思い直し、小さく自分の名前を呟いた。
「…クルルってーのか、よろしくなぁ」
「クーックック…よろしくだぜぇ」
にへら、としまりの無い笑みを浮かべる恭を見て、なんだか警戒するまでも無いような気がしてきたクルルは警戒を解いて、何時もの笑い声を上げた。
恭は「ん。」と言ってクルルに右手を差し出した。いきなり手を出され、クルルはどうしたらいいのか、この手は何を意味するのか、と考えていたが、恭が「握手」と笑いながら言ったので、ああそういうことか、と納得し、恭が差し出してきた手を握った。
恭は、うわぁ握手しちゃたよ!超ぷにぷに!!そこらの女の胸より柔らけぇ…!やべぇどうする!?とクルルと握手したことでテンションがぶっ壊れ、表には出さない物の内心かなりどきどきしていた。
恭が想像していたよりもクルルの手が柔らかくて、気持ちが良くて、ずっとぷにぷにと触っていると(あれだよ、あれ!なんつーの?犬のにくきゅう触りたくなるような感じ!)急にクルルが恭の名を呼んだ。
「…恭…」
「んー?」
「なんで俺を助けたんだ?」
「…………へ?」
まさかそんなことをこんな状態で聞かれるとは思わず、恭は手を止めて間抜けな返事を返した。
何で、といわれましても。
「何でって……クルルが俺を呼んだんだろ?」
「………はぁ?」
今度はクルルが間抜けな返事を返す番だった、恭はクルルの反応に首をかしげた。
クルルは勿論恭を呼んだ記憶なんて勿論無かった。
「んー…、誰か助けに来ないかな、とか思わなかったか?」
「…………あぁ」
「助けに来ないかな」、というよりも「俺をこんなとこに放っていくなんてなぁ……迎えにこねぇと…隊長、ただじゃすまさねぇ…」と思ったのだが、ニュアンス的にはあまり誤差が無いだろうと思い、長い沈黙の後頷く。
「それだ」
恭は指をパチンと鳴らす、そう、それなのだ。恭が”電波”として感じることが出来ることは。
予知能力とかではない、ただ人の感情を直接感じる。まさに、直感。
「まぁ、クルルが飛ばした電波を俺がキャッチしちゃった!って事だ」
「……そんなことがあるのか?」
「実際、あるんだから仕方ねぇだろ?」
「そりゃ…そうだな」
実際、恭がいう事が起こったからこそ、クルルは生きている、といっても過言ではない。(もしこのままずっとあそこに居たのなら、生きているという保障は無いのだから)
非科学的だが、認めるしかなかった。
「あ、そういやさ。」
恭はクルルの手を放して首をかしげた。
クルルは恭の手が離れ、何処か残念な気持ちになり、そんな気持ちになった自分に戸惑う。
残念だ、なんて。もっと触っていて欲しかったなんてなぁ。…俺らしくもねぇ。
そういえば、風邪をひくと人恋しくなるとか、隊長が言ってたような気がするぜ……、それ、なのか?
クルルは自分の僅かな変化に戸惑いながら、「何だ?」と恭に聞いた。
「クルル、お前熱あるだろ?どうだ?喉とか頭とか痛いか?」
「……ク……」
恭に言われて、急に、それこそ思い出したかのように頭が痛んだ。クルルは再び起こしていた体をベットにダイブさせた。
「大丈夫かー?」
「クックック…大丈夫そうに見えるか?」
「見えない」
「……ク…」
「あ、寝る前に水飲んどけ、脱水症状になるぞ」
「…クー……クッ?」
恭は眠そうなクルルの頭の下に右腕を突っ込み、体を持ち上げた。
左手でグラスを掴み、クルルの口元に持っていく。
「ほら、…こぼすなよ」
クルルは、飲まされる。というのが子供っぽくて気に入らなかったがこの状態では言えないことを悟り、諦めてされるがままにされていた。
恭はクルルがグラス一杯の水を飲んだことを確認すると右腕を抜き、クルルの頭の上に濡らしたタオルを置いた。
「安静にしてろよ…お休み」
「……ク……クーックックッ…」
人に”おやすみ”を言われる時が来るとは思わず、なんだかむず痒いような、そんな気持ちに駆られ、クルルは何時ものように笑うことでごまかした。
しばらく恭はクルルをじっと見ていた、一定の速度でクルルの胸が上下しているのを見て、クルルが寝たことを確認すると恭は立ち上がった。
クルルが恭のベットを占領していたので、恭には寝る場所が無い。その為、冬用の布団を押入れから引っ張り出しに行った。
恭は押入れから引っ張り出した布団をベットの隣にひいた。もしクルルに何かがあれば、これですぐに対処できると思ったからだった。
「…お休み、クルル」
恭はずれていた毛布をちゃんと掛けなおしてやり、自分も布団に寝転がり、目覚ましを6時にセットして寝た。
明日から楽しくなるぞ、コレは…。
と、思うと嬉しくて、暗闇の中一人声に出さず笑った。