12 「くりゅりゅ…」  




 ラボに入ったとたん、冷房が効いているのかひんやりとした空気が俺の肌を撫ぜた。
 さみぃ、と思い、クルルを少し強めに抱きしめる、…あったかい。

 昼なのに薄暗いラボ、ところどころ赤や黄色のランプが点滅していて、全くの闇では無かった。
 俺はこういうのって、普通入り口に電気のボタンあるよな?と思いドア付近の壁を手探る。

 しばらく探したら、下のほうにレバーのような物があって、(よく考えれば、クルルの部屋なんだから、下にボタンがあるよな…)それを下に倒してみた。
 
 するといきなり人工的な白い光が部屋にあふれ、俺は思わず目を細める。



「………、す、げぇ」



 目の前には無数に無秩序に絡み合ったコードが天井からぶら下がっていて、その隙間を埋めるように大小さまざまなパイプがぐねぐねと生えてた。
 いたるところに部品や作りかけの機械や完成された機械がある。
 そして、少し行った先には大きなディスプレイとそれを囲むようにしてある無数の小さいディスプレイ。



「…これ、全部クルルが造ったんだよな」



 腕の中に抱かれて寝るクルルが、こんな小さな身体で…ここまでの物を作り上げてしまうなんて、すごい、と素直に驚嘆した。



「クルル、起きろよ…」
「く……くーっくー…くー」
「…爆睡…」


 軽くゆすってみても、起きる様子は無い、…やっぱり疲れてるんだろうなぁ。
 だが、薬だけは飲まさねぇと…。


「クルル、薬どこだ?」
「…くー…くっ……押入れ」


 俺が少し大きめの声で言うとクルルはもぞもぞと動いて、呟くように一言言ってからまた、寝た。

 押入れ…、こんなとこに押入れなんかあるのか?
 俺はあたりを見渡す、と明らかにこの部屋では浮いている押入れが申し訳なさそうにこじんまりとあった。

 クルルを片手で抱きなおしながら襖を開ける。
 その先には布団や本や小物入れが無造作に置かれていた。
 …ここで、クルルは生活してるのか…、押入れ…。



 俺は布団の上にクルルをそっと置いて、小物入れを開けた。中にはペンチやらなんやら、と紛れるようにして数粒の錠剤があった。おそらく、コレだろう。



「クルル、薬。」
「……くーっくっ…。」

 
 クルルは相変わらず寝ぼけたような声を出して薬を受け取り、口の中に放り込んだ。
 それを飲み込んだ後、クルルはぱたん、とうつぶせに倒れた。


「…クルル?」


 まさか、死んでねぇよな…と嫌な想像をした自分に嫌悪を感じながらクルルの肩を遠慮がちにゆする。
 

「…く〜っくっくっ…俺様完全回復だぜぇ」
「早っ!」


 クルルはそう言いながら身体を起こす、…もう治ったって、いくらなんでも早すぎだろ。

 俺は信じられない気持ち半分でクルルの額に手を当てた。…まじかよ、熱が…下がってる…。


「…すげぇな、本当に完治したんだな?」
「く〜っくっくっくっ!…俺特製の薬だからなぁ…超即効性だぜぇ」


 すげぇ…というか、薬も作れるなんて…すげぇんだなぁ…。


「すげー…、ここにある物も全部クルルが造ったんだろ?」
「そうだぜぇ」
「…すげー…、なぁなぁ…色々さ、説明してくれないか?」
「…そうだな、ま。ギブアンドテイクだしなぁ」
「まじ!?ありがとう!」


 クルルは押入れから飛び降りて、俺の前をぽてぽてと歩く、…ちゃんと歩けてる…風邪、治ったんだなぁ…マジで。

 色々な機械を置いてある場所へ行くクルルの後を俺は慌てて追っかけた。







「コレが…俺が今までに作った物だぜ」
「おー!…銃の形のものが多いなぁ…クルル、コレなんだ?」


 俺は手元にあった大きな銃のようなものを持ち上げる、そこまで重くない、寧ろ軽い…。


「それは”夢成長促進銃”だ。」
「へー、どんな機能なんだ?」
「……自分で試してみたらどうだ?くーっくっくっくっ!」

  
 試す、ということは、危険なものではないということか…、ふーん。


 俺は銃を反対に持ち、銃口を自分の頭に固定する。


「…ク?…恭!?」
「恭、いっきまーす」


 クルルはまさか本当に使うと思っていなかったんだろうなぁ、驚いたように声を上げて、俺から銃を取ろうとした、が。俺が引き金を引くほうが僅かに早かった。……引く瞬間、少しだけ怖さで手が震えた。





 目の前が光に包まれ、意識が真っ白なものに包まれた。

 …しかし、それだけで全く変わりは無い、痛みも感じないし…目の前でフラッシュをされたような感じだけだ。

 そんなに、たいしたこと無かったなぁ、と思いながら俺は目をそっと開けた。


 ……・・・?目の前には大きな、クルル。



「・・・・・・・恭?」
「……くりゅりゅ?………は、なぁああっ!?」


 クルル、何でそんなにでかいんだ?と言いかけて、自分の口が思ったように回らないことを確認して、俺は喉を押さえた。 
 そのとき、自分の手が視界に入って、俺は、思わず、叫んでしまった。



「は、え。どういうことだぁ!?これぇ、おれ、こども…!?」

 
 手は、赤ん坊のように小さくてぷにぷに、身体を見下ろす、とやけに地面が近くて、それで、裸で。
 ようやく回りにある布が俺の服だと気が付いて、いやいやいや。状況を確認している場合じゃねぇ!!


「くりゅくりゅ!…く、る、る。…どぉゆうことだ」


 クルル、とうまく発音できない、ゆっくりとなら発音できるが、どうしても『くりゅりゅ』になってしまう!


「…最大にしちまったんだなぁ…この銃の機能は幼児化。だぜぇ」
「そ、そんにゃもにょつくるにゃよ!」


 ・・・思ったより、『ナ行』が言いにくい…舌がまわらねぇ…!ああ、くそっ、クルルに見下ろされてるし!



「………」


 とりあえず、立ち上がろう、座ってても…何もおこらねぇ!
 普段なら「立っても大してかわらねぇ」と思うが、今はそんなことを思っている心の余地はねぇ。


「………く〜っくっくっくっく!」
「……わ、わりゃうにゃ!」


 た て な い !

 立とうとしたら、こける、いや、足に力が入らないというべきか。…立てないって、立てないって…!俺一体何歳の姿なんだよ!?


「…くる、る…どぉすんの」
「くーっくっく!」
「わらうにゃ!」
「…どうするって言われてもなぁ、効力が消えるまで待つしかねぇな」
「…うそだろぉ」
「くーっくっくっくっく!」
 

 クルルズ・ラボには、俺の呆然とした声と、クルルの笑い声が響いた。


 おいおい、どうすんの、まじで。
 
 
 


  
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