普遍的な恋人達
 ナマエは太陽が覗いたと共に目を醒まし、薄暗い中ぐっと大きく伸びをした。
 隣を見ればまだ夢の世界へ旅立っている最中の愛しい人がいて思わず表情が緩む、くしゃりと眠るリヴァイの頭を撫でれば鼻にかかるような声と、僅かに眉に皺が寄り、そのあどけない様子に声を出さず笑った。
 緩慢な動きでベッドの上に散らばる服を集め寝ているリヴァイを起こさないように着替えるとそっとベッドから抜け出す。
 自分の服と同じように散らばっているリヴァイの服を集め起きた時に着替えやすいように、と簡単に畳むとベッドの端に置いた。

 こうしてリヴァイが共に寝ることを許すようになり、時折体を重ねるようになってからかなりの日数が経過したがいくら体験しても慣れそうにはない。
 無防備な寝顔を見る事が出来るのも、やはり自分を信頼してくれているからだと思うとナマエは嬉しくて無性に泣き出したい気持ちに駆られた。
 何年、いや十数年ずっと片思いだったのだ。こうして朝を共に出来るとは夢にも思わなかった。

 まだ日が登りきらない早朝、リヴァイを起こすには早すぎると判断し、ナマエは机に置いてあるスケッチブックと鉛筆を手にした。
 ぎしり、とベッドに手をかけリヴァイの体に掛かる毛布を僅かに下にずらす。無防備に晒された肉体は朝の柔らかい日差しを浴びてとても美しい。


「…バレたら、また怒られるかな」


 何度かこうしてこっそりと寝顔や裸体を描いているのだが、それを知るとリヴァイは途端に不機嫌になってしまう。
 その理由が分からずナマエは困惑するのだが、恐らく恥ずかしいのだろうと思うとなんだか愛しさが湧いてくるのだから、不思議だ。惚れた甘さというものだろうか。

 端正な横顔、普段は服に隠されていて普通なら見る事ができない引き締められた体。
 あまり毛布を下げすぎると寒さに起きてしまうし、風邪をひいてしまうかもしれない。と、ナマエは胸元辺りまで毛布を下げて手を止めた。
 
 じっと見つめ、丁寧にスケッチブックに描いていく。
 髪の流れ、睫毛の震え、今この瞬間の刹那の輝きを、切り抜き閉じ込めてしまいたいのだ。
 
 ナマエは静かにリヴァイを描きながら思う。きっと、自分は独占欲が強い、のだろう。
 だからこそこうして絵に描いて自分だけのモノにしたくなるのだ。胸を焦がすほどの切なさと愛しさも、描きたいという欲求もリヴァイに対してしか起こらない。

 しゅっしゅ、と紙の上を滑る鉛筆の音が響く。
 いつまでそうしていたのか、スケッチブックの上で走る手は止まることがなく気がつけば数枚書き上げてしまっていた。
 

「ん…もうそろそろ時間か」


 窓から差し込むまばゆい光を見上げ、ナマエは目を細めると手にしていたスケッチブックと鉛筆をそっと机の上に戻す。
 リヴァイはナマエが描いた絵を盗み見る趣味はなく、だからこそナマエはばれずにこうしてこっそり描き続ける事が出来るのだ。

 ナマエは自室の隣にある簡易台所へ向かい、お湯を沸かす。
 目覚めがあまり良くないリヴァイは朝起きた時にまず濃い目のブラックコーヒーを飲むのを習慣としていた。
 今日は特別上等な豆が手に入ったのだ、きっとリヴァイも気にいるだろう。
 人によっては表情が変わらず冷たい人だと言われがちなリヴァイであるが、ナマエとリヴァイは幼い時からずっと共にいた。リヴァイが冷たい人間だとは微塵も思はない、心の中に秘めた思いが強すぎて少々表に出すことが苦手となっているだけの、不器用でとても優しい人間なのだ。

 食器棚には自分のコップと、リヴァイの物が仲良く並んでいて、そんな些細な事に幸せを感じながらナマエはするりとリヴァイのコップを撫でる。
 丁寧に珈琲を注ぎ自分の物とリヴァイの物をそれぞれ片手ずつ持つと寝室へと移動した。
 外では鳥の鳴き声やもう起きて自主訓練を始める兵士の声が聞こえているというのにまだ睡眠を貪っているリヴァイが愛おしくて堪らない。

 ベッドの近くにある机にコップを置くと、ナマエは眠りにつくリヴァイの隣に座った。
 ぎしりと二人分の重みを受けてベッドが軋む、手を伸ばし頬に触れれば寝ているからか、いつもより少し高い彼の体温にナマエは無意識で微笑んだ。


「リヴァイ、起きろよ」
「…」
「おーい。リヴァイ?」
「ん……」


 肩を小さく揺さぶれば、リヴァイは眉間に皺を寄せ嫌だというように毛布の中に潜り込もうとする。
 昨日も会議や書類整理で疲れたのだろう、本来ならゆっくりと寝かしてあげたいのだがそうもいかない。
 ナマエは体を曲げてリヴァイに顔を近づけると、耳元で小さく囁いた。


「…リヴァイ」
「…っ…ん、…ナマエ…?」



 小さな囁きだったが、リヴァイはびくりと肩を震わせるとゆるゆると目を開けた。
 数回瞬きを繰り返しナマエの名を呼べば、ナマエは嬉しそうに笑う。


「起きた?おはよう」
「…あぁ…」


 リヴァイは近付いているナマエの顔に内心で驚いていたのだが表情には出さず(といってもナマエには気付かれているのだが)手でナマエの頬を軽く叩く。
 払われるように叩かれたナマエは自分の頬を撫でながら苦笑して身を引いた。

 着替えを探すリヴァイに畳んでいた物を渡せば小さく「悪ぃ」と帰って来る。ナマエは余計な気を使わせてしまったかとは思ったが、そんなリヴァイも貴重であり見れることが本当に、嬉しいのだ。

 服を着替えたリヴァイは、ベッドに腰掛けたままぼんやりと虚空を眺めている。
 起きてはいるが、まだ眠たいのだろう。


「はい、濃い目の珈琲」
「…無糖か?」
「うん、そうだけど…え?何かいれて欲しい?」
「いや、いらねぇ」


 リヴァイは素直に受け取ると熱い珈琲を少しだけ飲んだ。
 じわじわと覚醒していく思考。はっきりとしていく視界でリヴァイはナマエをチラリと見る。
 隣で同じようにベッドに座り、珈琲を飲むナマエの横顔。
 昔はこんな関係になるとも、同じ場所で朝を迎えるとも思わなかった。
 
 恋人、という関係ではあるが自分たちの状況は一般的ではない。そもそも男同士であり昔は親友、だったのだ。
 こんな何処にでもいるような、普通の恋人達のように朝を迎えることが出来る、それがどれほど幸福な事であり精神的な支えになっているか、だなんて考えずとも分かることだ。


 リヴァイは暫しナマエを見つめていたが、その視線に気付いたナマエが「どうした?」と言うように首を傾げればなんでもないと目を逸らす。
 


 何となく何を考えているか解ったナマエは、少し開いた距離を縮めるようにリヴァイへ近付くと、空いているリヴァイの手を握った。
 リヴァイもそれを拒絶することなく、僅かに力を込めて握り返す。

 何処にでもいるような恋人達の甘いひと時を、この朝の僅かな時間でも過ごす事が出来る彼らは間違いなく幸福だった。

 




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亞梨紗さんに捧げます!
黄主とリヴァイでほのぼの甘…ということで、糖分増しで書いてみました!
私としては珍しく本当に甘い作品になり、書いていてこの二人恥ずかしい…と何度手を止めて思ったことでしょうか(笑)

何はともあれリクエストありがとうございました!




bkm
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