その目に映るのは

 地に降りしきる太陽の光は温かく僕を包み込む。
 手にしていた洗濯物を一度桶の中に戻し、額から頬へ伝った汗を拭う。


「ふう…結構疲れるなぁ」


 大きな桶の中に入るのはこの古城にいる兵士達のベッドのシーツだ。僕の背丈以上のシーツを洗うのは時間が掛かり中々に大変だ。
 後数枚で終わる、午前中に終わらせ無ければ正午からの訓練に間に合わない。午後からはリヴァイから直々に立体起動術の指導があると噂で聞いた。
 頑張らなくちゃ、リヴァイに、兄さんに褒められるように、早く認められるようになりたい。
 まだ僕はリヴァイの手足として動くには技術も経験値も少なすぎる、一刻も早く人類を…そしてリヴァイを守れるようになりたい。


「よしっ!あと少し!」


 僕は落ちてきていた袖を捲り上げると、再度洗濯物に取り掛かった。
 冷水は白く濁り汚れを落としていく。そろそろ水を変えなければならないと僕は大きな桶を抱え上げ、井戸へと向かった。
 水は見た目よりもはるかに重く、一歩一歩進むたびに中に入っていた汚水が揺れ地面に落ちる、転ばないように必死に気をつけているのだが抱える腕が震えてしまいうまくいかない。


「うわっ…っと…危ない…」


 石に躓き転びそうになり慌てて体勢を立て直す。
 ようやく井戸までつくと、洗濯物が邪魔をし今まではわからなかったが、そこにリヴァイが居ることに気がついた。
 訓練でもしてきたのか、リヴァイの額には僅かに汗が滲みいつもならしっかりと着ているコートを着ていない。シャツもところどころ肌に張り付いているようで、そのラインからリヴァイの引き締められた肉体が手に取るようにわかってしまう。

 外見こそ僕と変わらない身長でそこまで筋肉質には見えない。だけれど布の下に秘められた肉体は、本当に美しいと、思う。
 いや、そんなにまじまじと見たことはないけど。

 一瞬頭に浮かんだリヴァイの裸体を慌てて首を振って消す。いや、確かにすごいとは思うけどこんな妄想をして居るとばれたらリヴァイに鼻で笑われ最悪蹴られてしまうだろう。


「リヴァイ、井戸使っていい?」
「あぁ…。何をしている」
「何、って…洗濯だよ、今日は僕の当番なんだ」


 井戸に腰掛けるリヴァイはさして興味なさそうに大量に積まれる洗濯物の山を見た。
 掃除、洗濯等は僕ら新兵がやる仕事で勿論リヴァイには回ってこない。彼にはそれ以上に沢山の仕事があるのだろう。


「んっ…お、重い…!」


 長時間洗濯をして、疲れきった腕では縄をうまく引き、バケツを上げる事が出来ない。
 何度も唸って挑戦するけれどやはり上手くいかず、踏ん張りながら震える僕は滑稽だろう。
 

「うわっ!?」


 突然、負荷がなくなりすんなり縄が引けてしまった。前につんのめったけれど直ぐに体勢を立て直し、わけもわからないまま縄を引く。
 ふと縄が後ろから引っ張られる感触に後ろを向けば、両手で縄を持つリヴァイと目があった。


「ぼさっとするな、早く引け」
「う、うん」


 後ろで引いてくれたから、これほど軽いのだろう。僕はすぐさま縄を最後まで引くとバケツを手にした。
 溢れそうな程に満たされた水は太陽の光を浴びてキラキラと輝く。

 
「ありがとう」
「…あぁ」


 バケツの水を桶の中に流し込み、リヴァイにお礼を言えばぷいと顔を逸らされた。
 最近解ったのだが、リヴァイはかなり自分の感情を表に出すことが苦手だ、無意識なのか、どうなのか僕には分からないがこれだから人に冷酷だと勘違いされてしまうのだろう。
 きっと、照れているんだなと判断し、少しだけ悪戯心が生まれる。
 潔癖症なリヴァイの事だ、汗をかいたまま放置するわけはないだろうどうせ後で水を浴びるのだとしたら、少しくらいは許されるはずだ。

 
「リヴァイ」
「何……っ!?」


 バケツの中に残っていた水を手で掬い、リヴァイめがけて投げる。
 ぱしゃりと顔に水を浴びたリヴァイは何が起こっているのかわからなかったのか、一瞬呆けたような珍しい顔をしたと思うと。


「…ほう」
「え、あ…」
「お前がそれほど、水浴びしたかったとは思わなかったな、ナマエよ」


 にやりと悪い笑を、浮かべたかと思うとリヴァイは洗濯桶の中に入っている水を手で掬い上げ僕に向かって投げつける。
 防ぐには遅くその水は僕の顔に思い切り掛かった。これは、ただの水ではない、石鹸水、だ。


「っ…!目、痛っ…!」
「自業自得だろ」
「酷…」


 ひりひりとした目の痛みが止まらない。今すぐに冷水で洗いたいけれど、水は井戸の下だ。
 目をつむったままではどうすることもできず、声からしてリヴァイのいる方向を見上げ困ったように眉を下げた。


「リヴァイ…み、水が欲しいんだけど…」
「…チッ」


 リヴァイは舌打ちを打つと縄を引っ張ってくれているのか滑車が軋む音が聞こえた。
 これで何とか顔を洗えるとほっとした瞬間。


「うわああっ!?」


 ばしゃん!と頭から冷水がかけられる。その冷たさにびくりと体が震え、驚いて変な声が出てしまった。
 石鹸水も同時に流され、僕は目を擦りながら見上げる。
 
 逆さまにしたバケツを持ち、ニヒルな笑で笑うリヴァイがそこにいた。



「満足か?」
「ッ…濡れちゃったよ!」
「元はといえばお前が悪いだろ」
「くっ…」



 ぐっと拳を握る。言い返すことができない。
 僕を見てリヴァイはふと表情を緩めると、小さく笑った。
 先程見た悪い笑みじゃなくて、目が少し細められていて、楽しそうなその笑顔で。

 きっとこんな笑顔を見せるリヴァイは珍しいのだろう。
 それを見ているのが僕だけだと思うと、なんだか凄く嬉しかった。




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浅霞さんに捧げます!
赤主と兵長でほのぼの、ということで。
古城生活での日常的な、ちょっとしたお話を書かせていただきました。
リクエストありがとうございました!




bkm
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