いちぺーじ


 ゴミ捨て場からリヴァイにより救われたナマエは今日、出会って一年目を迎えようとしていた。
 だが部屋にカレンダーというものはなく、今日がいつなのかは分からないナマエにとって、その日は特別な一日ではない。
 いつものように鳥の囀りで目覚め、身支度を整え、珈琲を白いマグカップに入れる。これがナマエの日課となっていた。
 共に生活をするようになり、リヴァイが朝に弱いとわかると毎朝彼が飲んでいる珈琲を入れるのは、リヴァイよりも先に目覚めるナマエの役割となっていた。
 その珈琲も入れた当初は思わず眉をひそめる程味が薄く不味いものだったのだが、こうして回数を重ねていけば少しずつ上達し今やリヴァイにとって珈琲といえば、ナマエの作った物だった。

 丸く白いトレーになみなみと珈琲が入っているマグカップを乗せ、溢れないように慎重に寝室まで運ぶ。
 扉を肩で押し開けて、開いた扉の隙間に体を滑り込ませ足音を立てずリヴァイが眠る寝室の中へ入り込んだ。
 ベッドの側にある机にトレーを置き、とてとて、と小さく駆けてリヴァイに近寄る。
 白い毛布がこんもりと丸くなっていて、ナマエはそれが何故かとても可愛らしく思えてしまいくすくすと笑う。


「リヴァイさーん、起きてー」


 ちょこん、とベッドの側に座り込み、手を伸ばしその白い山を軽く叩く。
 だが呻き声もせず、動きもしないその山に頬を膨らませると更に力を込めて叩いた。


「リヴァイさーん!朝だよー!」
「う、るせぇ…」
「もー!僕お腹すいたー!」


 くぐもった低い声が響く。不機嫌さが滲みでたその声に臆する事なくナマエは両手で強くリヴァイを叩いた。
 リヴァイは無意識でその攻撃から逃れようと身じろぎをする、更に丸くなった山にナマエはどうしたものかと頭を捻った。
 そして一度ぽん、と自分の手を叩くと悪戯めいた顔でその毛布を掴む。


「それっ!」


 力を込めるために掛け声を出しながらナマエは強くその毛布を引っ張った。
 ばさりと毛布は空を巻い、ナマエの手元に引き込まれる。毛布を奪われたリヴァイは差し込んだ日差しに顔をしかめつつ、ゆっくりと目を開いた。
 
 目に飛び込むのは嬉しそうに、どこか悪戯っぽく笑うナマエで、それを見た途端睡眠を阻害された怒りはみるみるうちに静まっていく。
 キラキラと輝く赤い目に自分だけが映っている事に心が落ち着く。手を伸ばしナマエの頭をいつもより優しく撫でた。


「おはよう、リヴァイ」
「ああ…」


 ナマエは与えられる優しい温度にとろんと目元を緩ませ、猫のようにその手に擦り寄った。
 とんとん、とリヴァイがベッドの上を叩けばナマエはぱっと表情を明るくしていそいそとベッドの上に上がる。
 リヴァイは他人を同じベッドで寝ることを極端に嫌っている。それは相手がナマエでも同じであり、一緒のベッドで眠る事は無かった。だが、こうして機嫌が良いときにはベッドの上に上がることを許すのだ。
 勿論その場で寝ようものなら床に落とされてしまうのだが。


「リヴァイのベッド、あったかい」
「…そうか?」
「うん!後はーふわふわして柔らかいよ」
 

 嬉しげにぱたぱたと足を揺らせ、ナマエはリヴァイの側に寝転ぶ。
 互の肩が触れ合うことはないが、それでも相手の熱を感じることのできる距離が、今の二人を表している距離だと言えるだろう。つかず離れず、だがまだどこか心から求めてはいない。その距離が埋まるのは遠くない先の話だ。


「あ、リヴァイさん!珈琲入れましたよ」
「…」


 此処に来た目的を忘れかけていたナマエはがばりと体を起こすと手を伸ばし机の上からコップを取る。
 特別大きいコップではないが、まだ幼いナマエの手のサイズには合わず両手で抱え込むようにしてしっかりと持ち、まだ眠たげに目を閉じかけるリヴァイに向けて差し出した。

 受け取られるのを今か今かと待つナマエに、リヴァイは頭を掻きゆっくりと体を上げる。
 ナマエの小さな手からコップを受け取ると、白い湯気の立つ珈琲を一口飲み込んだ。


「味はどう?」
「…悪くない」


 その言葉がリヴァイにとっての褒め言葉だと知っているナマエは、嬉しそうにはにかんだ。
 


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佐伯さんに捧げます!
ほのぼの、との事でしたのでとりあえず過去のリヴァイと赤主を書いてみました!
ほんの日常のいちぺーじ、ですが二人にとっては幸せな日々だったのだと、思います(*゚▽゚*)
リクエストありがとうございました!

 



 




bkm
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