れっつくっきーんぐっ!

 
 ハンジが作るケーキは何故そんなにも美味しいのか。小一時間考えてみたけど分からない。
 分からない事が僕に存在するだなんて、なんだか嫌だったしなんとなく暇だったというのもあり、僕はハンジと共に厨房に立っていた。
 隣に居るハンジは白い卵を持ちながら僕をちらちらと盗み見ている。きっと、急に「作っているとこ、見せて」と言った僕が気になるのだろう。まぁ、今まで一度も無かったし。今まではケーキを作る課程に興味もなかったしね。


「…じゃあ作るけど」
「ん、お願い」
「でもなぁ…レシピ通り作ってるだけなんだよな、本当に」


 ハンジは卵を器用に片手で割りながら、空いている方の手でケーキのつくり方について纏められた資料に目を通す。
 そのまま作っているだけなら、あれほど美味しくならないと思うんだけど。だって僕が何回食べても飽きない程なんだもん。飽き性の、この僕が!
 じっと手元を見ていると、ハンジはちょっと緊張しているのかいつものような軽快な喋りはなく、黙々とケーキを作り始めた。
 銀色のボウルに卵と、貴重だという砂糖やら牛乳を混ぜている。うん、このあたりは僕も知っている作り方だ。その後も対して変わった行動をとることはなく、ハンジは慣れた手つきでケーキの種を掻き混ぜた。
 型に出来上がった種を流し込み、何やら分厚い鉄板の上に乗せ、轟轟とした火が上がるかまどの中に押し込み、分厚い鉄の扉を閉めた。
 ああ、そうか。ここにはオーブンレンジとか、オーブントースターなんて文明的な物は存在しないのか。パンとかもこうして作るのかな?火加減が大変そう。


「…あとは焼けるのを待って…クリーム塗るだけなんだけど」
「ふーん…本当にレシピ通りなんだね」
「だから言ったじゃないか…」


 僕の率直な感想に、ハンジは苦笑いを浮かべた。本当に、変わった事は一度も無かったし、隠し味を入れている様子もなかった。
 クリームやトッピングの果物が上等なものなのかな?とは思うけど、ハンジの言い方からして、クリームのつくり方もレシピ通りなんだろう。
 それならば何故、おいしいのか。結局謎は深まっただけで一向に解決はせず心の中をもやもやとした言いようのない不安感がよぎる。完璧な僕は、全てを知らなければならないんだ。


「後…一時間か二時間くらいかかるけど、食べるかい?」
「食べる。部屋で待ってるねー」


 それを聞くとハンジはあからさまにほっとしたようにため息をつき、肩の力を抜いた。
 やっぱり、見られている事に多少なりとも緊張はしていたのだろう。僕が見てることで失敗されても困る、ハンジのケーキは僕の唯一の楽しみだから。

 ひらひらと手を降って、僕は厨房を出て行った。ここからハンジの部屋までの道のりは何度も伝えられたし、廊下に並んでいる扉の数をしっかりと数えていれば間違えない、はずだ、うん。
 ちょっと不安だったから、僕はしっかりと扉を見ながら慎重に進む。扉に意識のほとんどを持って行っていたせいか、曲がり角に差し掛かった時たまたま目の前に人が居ることに気がつかず僕はその人と軽くぶつかってしまった。
 頭を抑え、上を見上げれば不機嫌そうな顰め面をしたリヴァイと目が合う。こんな廊下で会うなんて、珍しい。


「迷子か?」
「違うよ。部屋に戻る途中。さっきまでハンジと厨房に居たんだけどさーケーキ作りまだまだ掛かりそうだったから」


 リヴァイは常に僕が迷子だと思っているのかな。ありがち間違いではないけれど、ハンジの部屋に無事に帰れる事も多くなって来ているのになぁ。
 ケーキ作り、と聞くとリヴァイは「またか」とばかりに舌打ちを零した。どうやらリヴァイはハンジが週に1、2度ケーキ作りに勤しんでいる事をよく思っていないらしい。何度か食材の無駄だと吐き捨てていたリヴァイを見たことがある。
 まぁ、ケーキを作る時にどうしても使用する材料はどれも高価な物ばかりで、確かに勿体無いのかもしれないけれど僕にしてみれば関係のない話だ。どんな形で砂糖や卵を摂取しようとも変わらないと思うんだけどな。


「何でハンジの作るケーキって美味しいんだろうね。それが知りたかったんだけど…リヴァイ何か知ってる?」
「知るか。それにアイツがつくるケーキは…普通だろ」
「そうかなぁ」


 さして興味もなさそうに答えるリヴァイに、僕は首をかしげた。
 可笑しいな、あのケーキの味が普通だなんて。とても甘くて、だけどしつこくないとても美味しい味なのに。リヴァイはあまり甘いものが好きじゃないのかな?味覚は人それぞれだけど、それを理解している上でかなり美味しい分類だと思うんだけど。
 見た目は、確かに不格好ではあるけれど。


「少なくとも、僕が今まで食べたケーキの中で一番美味しかったけど」


 ここの世界でケーキはハンジしか、つくらない。そもそもケーキなんてもの一般市民が軽々しく口に出来るお菓子ではないらしい。そこそこ裕福でなければ口にすることが出来ないのだとか。
 元の世界ではハンジがつくるケーキ以上に凝った物も多く流通していたし、それこそお手軽に買えるものだった。中には一つ何千円のケーキもあったし、食べた事もあるけど。一流コックがつくるものよりも何故か、素朴で美味しいんだよね。

 ぶつぶつと呟く僕に、リヴァイはすっと目を細めた。


「それは、お前だからじゃねぇのか、ナマエよ」
「…え?」


 もうこの話題を終わらせたいのか、それとも急いで居るのか。リヴァイはそれだけ言うと僕の隣を通り過ぎ廊下を歩いて行ってしまった。
 後ろを振り向き、去っていくリヴァイを見ながら言われた言葉を考える。
 僕が食べているから?僕は確かに味には五月蝿い方ではないけれど、それなりに舌は肥えている。そんな僕なのに?

 不可解なリヴァイの言葉の意味を、どう考えても分からず。
 僕は首を傾げながらハンジの部屋へと向かった。


 
「…そういえば、昔本で読んだなあ…料理の秘訣は、愛情だとか」


 
 ふと、思い出した言葉を呟く。
 だが直ぐに笑えてきてしまって小さく笑うとそのバカバカしい思考を振り払った。
 そんなわけ、無いじゃないかと自分に言い聞かせるように。




 その日食べたハンジのケーキは、やっぱり何時もと同じようにとても美味しかった。
 
 



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柚月様に捧げます!
ほのぼの、ということで。ほのぼのというよりもただの日常的な話になってしまいましたが!
ハンジがつくるケーキに興味津々な主人公。そしてちょっと意味深な言葉を投げかける兵長のお話でした!
リヴァイは色々理解している上で、何もいいそうにないな、と思います。うっすらと感付いてはいるけど言わない、的な!

ほのぼのしているといっても、当サイト比較ですので喜んでいただけるかとても不安ですが…!
良ければお受け取りください(*゚▽゚*)
リクエストありがとうございました!














bkm
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