指揮官と参謀長感


「エレンとライナー気合入ってるなー!」
「ん?あぁ…そうだな」


 真面目に取り組む者が少ない対人格闘術という訓練で、そんな怠けている訓練兵を補うように人一倍…いや、三倍程頑張っている者たちがいる。
 三年の訓練課程を終えたとき、恐らく上位十名の中に入るだろうと噂されているエレンやライナー、そして最近では俺たちと同じように怠けていたアニですら、彼らの熱意に影響されたのかサボることなく訓練を受けていた。

 座学も、立体起動術も、対人格闘術も全て並。並どころか並以下かもしれない俺は点数の入らないこの訓練に全力で臨めるわけもなく、教官の目を盗み仲間と木陰で休みながら白熱する二人を見ていた。
 気がつけば彼らの周りをギャラリーが囲い、今日はどっちが勝つか、なんて晩御飯のおかずを賭けて勝負すら始めてしまう。
 

「俺!ちょっと見てくる!ナマエは?」
「俺は…疲れたからここで休む」
「わかった、教官にバレないようにな!」


 ギャラリーの中へ飛び込む仲間をひらひらと手を降って送り出した俺は遠く離れた場所から群がる同期達をぼんやりと見つめる。
 エレンも、ミカサも、ライナーも。それなりに個性的であり強い人たちとは面識はある、彼らと二年以上もこの場で血反吐を吐きながら耐え抜いてきた仲間、だ。
 かと言って、それ程親しい訳ではなく、掃除当番や配給当番に当たった時に世間話をする程度で常に一緒というわけではない。お互いに名前は知っているけれど、それだけの関係だ。

 どうしてあれ程真面目に取り組めるのか、この二年間サボり癖が体に刻み込まれてしまった俺には理解が出来ない。
 どうせ点数に入らないのだし、俺の実力では上位十名の中に入る事なんて到底不可能だ。それならば開拓地送りにならない程度に、上官に目をつけられない程度に手を抜いて駐屯兵団に入るのが完璧な人生計画だろう。間違っても命がいくつあっても足りない調査兵団になんか入る気はない。
 入ったところで、きっとすぐ巨人に食われて死ぬのがオチだ。


「あ、ナマエ…隣、いい?」
「アルミン…」


 歓声が沸き起こる一点を見つめて居た俺は、隣から近付いてきていた存在に気がつかず、声を掛けられて初めてこれ程の接近を許して居た事に気付く。…これが壁外なら、気付く事もなく食べられてオシマイだっただろうな。

 アルミンは額から流れる汗を拭うと、シャツの襟元を熱そうにぱたぱたと揺らす。この汗と上がった呼吸からして、きっとアルミンも真面目に訓練に取り組んでいたのだろう。
 この木陰は丁度教官の死角になっているし、休憩するには…サボるには丁度いい場所なのだ。


「このクソ暑い中、アルミンもよくやるよなぁ」
「あはは…エレン達を見てたらさ、何だか体動かしたくなって…それに無駄な事は一つもないからね!…僕は人より体力が少ないから…」
「あー…アルミンは座学では一位だろ?この前のテストも教官から褒められて居たじゃねぇか」


 苦笑するアルミンの横顔は同年齢の子供と比べても幼く、筋肉も十分についてはいない。きっとそういう体質なのだろう。
 その分アルミンには他の人間にはない稀凡な発想と秀才な頭脳を持っている。将来はそれを生かした道に進むんだろうな。

 と、そう思って呟いただけなのに、アルミンは驚いたように目を開くと、意外そうに俺を見た。
 

「…何だよ」
「いや…ナマエって、すごく人を見ているよね」
「…俺がストーカーみたいな言い方するなよ」
「あっ!そ、そういう意味じゃなくて!」


 じろりと睨んで見せれば、アルミンは慌てたように手と首をぶんぶんと降って否定する。
 俺の軽い冗談を間に受けてそんなに必死になって否定しなくても良かったのだが、アルミンの性格上仕方の無いんだろう、アルミンは全て間に受けたり、変に深く考え込む節がある。頭の回転が早すぎると冗談も冗談に受け止められないのだろうか。


「わかってるって」
「よかった…。その、僕が言いたかったのは…ナマエは良く人を観察してるし…この前の巨人討伐模擬訓練だってさ、その場のチームを上手くまとめてただろ?」
「…買いかぶりすぎだ。…俺以外の奴らが優秀だったから上手くいっただけだって」


 確かに、前回の訓練では俺が所属するチームが最高の成績を収める事が出来た。
 その時たまたま指揮官役が俺だったのは確かだが、それが俺の評価に直接つながる事はないと思っている。メンバーもかなりバランスが取れていたし、お互いの苦手なところを補える良い関係だったのだ。
 だから指示しやすかったし、メンバー全員俺の言うことを聞いてくれた。寧ろ、直接動くことは無く後ろから支持するだけの俺に苛つく事なく指示に従ってくれた人たちだったからこそ、成功する事が出来たんだろう。


「違うよ!ナマエが居る班は何時も上位だし…僕は指揮官向きだと思うな」
「…指揮官、ねぇ」


 大真面目な真剣な目で見られても、その言葉はいまいちピンとくるものではなかった。俺ならば、俺みたいな人の下で働きたいとは思わない。
 けれどアルミンの性格上、ここで否定しても俺の逃げ道を塞ぐがごとく、その賢い頭脳で論破してしまうだけだし、元々口がうまくない俺が上手くかわせるとは思わない。
 ここは、適当に流しておいた方が得策だろう。


「そうだな、俺が指揮官なら…アルミンは参謀長官か?」


 ニヤリ、と笑えばアルミンは一度目を開くと。


「それもいいかもしれないね」


 と、楽しそうに笑った。







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ミヤ様に捧げます!
アルミンと男主、どんなものでもいい!ということで。
知り合い以上友達未満、これから友達になっていく二人…のようなものをかかせていただきました!
ただの日常のヒトコマ、のようになってしまいましたが…!気に入ってくだされば嬉しいです(*゚▽゚*)
リクエストありがとうございましたー!







bkm
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