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来神時代。前拍手文の続き。







俺はあまり美術が得意じゃない。ついでに言えば音楽も好きじゃない。
にも関わらず、この学校はどちらか片方を選択しなければならない授業時間がある。屋上で青空を眺めるだけの授業はないのかな。それから皆で昼寝するんだ。満点採れる自信がある。

仕方なく鉛筆を転がして決めた結果、俺は美術を選ぶことになった。テストで点数さえ採ればいいと教師に聞かされてから、授業には参加していない。
すると三回目のサボりをした日、美術教師にせめて作品は完成させろと放課後呼び出されてしまった。テストだけでいいと言ったのに。嘘つきめ。

誰もいない美術室はなかなかに居心地が良くて、夕焼けが見えて綺麗だった。これならば参加してやってもいい。
机の上に置かれた木の板を、彫刻刀で削り取っていく。あまり使っていないそれは、とても切れ味が良かった。それだけに彫っていて気持ちがいい。軽く鼻唄を歌いながら、俺は作業に没頭していた。

「……何してんだ、手前」
「うわぁ!」

だから背後にシズちゃんがいたことに気付かなかった。突然話しかけられたことに驚き、手元が狂った刃は板を押さえていた俺の指に当たった。

「う……」

薬指にできた切り傷からは、ぷっくりと赤い血が膨らみを作っていた。だから美術は嫌いなんだ。

「い……今のでか?」
「大丈夫だって。ってかシズちゃんと喧嘩するときの方がもっと大怪我だし」
「そ、れは……俺がやったからいいとして……」

いやいや、俺からすればシズちゃんの怪我の方が痛いんだよ。ドクドクと痛む傷口は血を溢れさせている。生憎拭くものが見当たらない。目の前でおどおどしている男が、何か持っているわけがない。

「平気だって。舐めとけば治るよ」

ちゅっと傷口に唇を当てると、独特の鉄の味がした。昔から舐めれば治ると言うが、本当だろうか。今度新羅にでも聞いてみよう。少し染みるから眉をしかめていると、何やら視線を感じる。後ろを向くと、シズちゃんが俺を凝視していた。

「……何?」
「う、うぜぇ!とにかくこれ貼れ!今すぐ貼れ!つーか貼る!」
「はぁ?」

シズちゃんは俺の前の席に座ると、ずいぶんぺちゃんこな鞄から絆創膏を取り出した。そんなもの持ち歩いているのか。また血が垂れそうだから舐めたら、またものすごく怒られた。
怪我した手を掴まれ、シズちゃんにしては丁寧な手つきで絆創膏を貼られる。途中粘着部分同士がくっついて慌てていたけれど。

「あり、がと……」
「お、おぅ……」

変に居心地の悪さを感じる。シズちゃんはじっと、掴んだままの手を見ていた。すり、とシズちゃんの熱い手が俺の手を撫でた。びくりと俺が手を震わせると、慌てて離される。それを少し残念に思いながらも、撫でられた手が切り傷以上に熱い。シズちゃんに見られないように机の下で、そっと撫でられた場所に触れる。シズちゃんの手、意外に触り心地良かった。

「な、なぁ……これ、なんだ」

俺が何にも反応しないことに焦っているのか。何とか誤魔化そうと、シズちゃんは顎で机の上の木の板を指した。

「猫だよ。見て分からない?」
「……」


しばらく黙ったシズちゃんは首を傾げながら、3匹も彫るとかよく面倒なことできるな、と呟いた。残念だね、これは1匹しかいないよ。

「……これやる」
「え」

シズちゃんから投げ付けるように渡されたのは、飴だった。可愛らしいピンク色をした袋には、苺のイラストが描かれている。

「苺好きなんだろ?だからやる。あと……悪かったな、指」
「あ……」

そう言ってシズちゃんは逃げるように出ていってしまった。そうだ、彼は俺が甘いものを自分から食べるほど好きじゃないと知らないんだ。

手の中にある飴を、そっとポケットにしまう。食べたくないわけじゃない。せっかくシズちゃんから貰ったものなんだから、大事に食べないと。

絆創膏を貼られた左手は、傷のせいじゃない熱を持っていた。

















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