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僕らの青い春




来神時代



学校終了を告げるチャイムと共に、我先にと通学鞄を片手に教室を出た。今日は掃除当番なわけでもなく、俺は部活にも入っていない。込み合う靴箱も俺が行けば自然と道を譲られる。最初は鬱陶しかったが、慣れると案外便利だ。そのまま校門に向かって歩いていると、どこからか自転車のベルを馬鹿みたいに鳴らしている音がした。

「どーん!」

後ろに感じた衝撃と聞き覚えのある声に振り返れば、昼休みからHRまで教室に戻らなかった臨也がいた。見慣れない真新しい自転車に跨がり、相変わらずにやにやとした笑みを浮かべている。さっきからベルを鳴らしていたのはこいつか。

「……手前、自転車通学だったか?」
「うーん、ちょっとね」

臨也は語尾を濁してごまかしながら自転車を停めた。こいつの家は新宿だと聞かされていたが、まさかあんな所から自転車で通っているのか。

「実はさぁ、昨日シズちゃんにこかされた右足が急に痛みだしたんだよね。新羅は運動控えるように言ってたしさぁ。でも俺は自転車で帰らないといけないし」
「……」

わざとらしく足首に巻かれた包帯を見せつけてくる。
昨日のは俺は全く関係ない。喧嘩をしているときならまだしも、俺が雑巾で拭いていた床をコイツが勝手に滑っただけだ。あまりの転けっぷりに思わず大丈夫かと手を差し伸べてしまったほどだ。

「……あれは手前が勝手に」
「あぁ痛いなぁ!」

わざとらしく声を荒げて地面にうずくまり始めた。周りの視線が痛い。ほとんど俺ではなく臨也に向けられているが。仕方なく前かごに鞄を放り込み、臨也に後ろの荷台部分へ乗るように促した。

「安全運転第一だからね」
「……うぜぇ」

というかこいつの荷物はないのか。大して重みを感じない臨也が乗ったのを確認して、とりあえず校門を出た。
自転車は苦手だ。力むと握ったハンドルを曲げてしまうし、周りを見ながら運転するのもめんどくさい。

「シズちゃんって自転車乗れたんだね。てっきり三輪車しか乗れないと思ってたよ」
「手前振り落とすぞ」

わざと左右に揺らすと肩に置いていた手を腰に回された。落ちないためにとはいえ、あまり人に触られたことのない俺には落ち着かない。それが臨也ともなれば、余計にだ。

「……って言うかよ、手前タクシーでも呼べば良かったじゃねぇか」

シャツ越しに感じる髪の感触や吐息に、ハンドルを握る手に無意識に力がこもる。
正直、二人乗りと言うものに憧れていた。登校するとき、よくそうやって学校へ行く男女を見かけた。それだけでなく、仲の良さそうな友達同士もしている。だから、そういう相手が俺も欲しいと、陰ながら思っていた。
それが今叶っている。口ではあぁ言ったが、内心とても嬉しかった。

「……ちょっと恋人みたいなことしたかっただけ。……シズちゃんが嫌ならやめる」

そう言って臨也は腰から手を離してしまった。遠慮でもしたのか、それとも今さら気まずくなったのか。急に寒くなった背中が嫌で、臨也の腕を掴んで強引に腰へ回させる。いきなり引っ張られたせいで顔を背中にぶつけたらしいが気にしない。

「……みたいじゃなくて、実際そうじゃねぇか」
「……」
「なんで黙んだよ」
「……だ、だってシズちゃんがいきなりデレるから」
「はぁ!?」

思わず後ろを振り返ると、前見て運転しろと顔を前に向かされる。一瞬しか見えなかったが、臨也の顔は真っ赤になっていた。それからさっき自分が言った事を思い出して、俺まで顔が熱くなってきた。
どうにかしてその熱を冷ましたくて思いっきりペダルをこいだ。

「ねぇシズちゃん」
「……なんだよ」
「好きって言ってよ」
「……っ」

驚いて思わず、ブレーキをかけてしまった。後ろを向くと、真剣な表情の臨也と目が合った。緊張からか、口の中が渇く。こうやって目が合うくらい、普段から何度もあるのに。
俺が黙っていると、臨也の目は不安げに揺れた。

「俺はシズちゃん好きだよ?」
「……俺、は……」
「……うん」
「……俺も、好きだ」

本当に小さな声で言うと、腰に回された腕の力が強くなったような気がした。そういえば、付き合ってから一度も好きだと言っていないことに気付いた。
こっそり後ろを振り返ると、臨也は嬉しそうな顔をしながら泣いていた。









(どうしたんだい京平)
(……俺の自転車がない)
















新羅は徒歩っぽいのでドタチンの自転車拝借しました。

もちろん臨也は嬉し泣きです。あの人泣くんですかね。

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