小説 | ナノ
目を閉じているのは貴方だけ




セックスは愛を確かめる神聖な行為だと言ったのは誰だったか。忘れた。
そんなもの嘘に決まってる。セックスなんてただ子孫を遺すための生殖行為じゃないか。犬や猫がしているのと何ら変わらない。男や雄が女や雌に射精して終わり。何も面白くない。

それに当てはめると、俺がしているのはそれにすらならないのか。だっていくらセックスしても子どもなんて宿らない。馬鹿みたいに回数を重ねても少子化対策にはなっていない。
むしろ精子を何もないシーツや尻の穴に撒き散らしてるから、無駄にしてるかもしれないね。


池袋を歩く。吐き出す息が白く目に見えるくらい冷える夜だった。目の前には俺よりも大量の白い息を吐く男。まぁあれは煙草の煙なのだけど。いつものように何かを投げるでもなく、殴りに来るわけでもなくそいつは煙草を吸った。

その一本を地面に落として靴底で潰している頃には、俺の身体は冷えきっていた。だから冬の夜は嫌いなんだ。怪我をすると物凄く痛いし。
煙草を吸い終わったシズちゃんはいつもの『殺す』と同じように『好きだ』と言って俺に口付けた。口内に広がる苦い味に吐き気がした。

最初の頃は触れるだけだったのに、今じゃあ俺の息が上がるくらい激しく舌を絡めてくる。口内は温かいのに、手や身体は冷たいままだった。


この関係が始まってから来るようになったシズちゃんのアパート。こんな薄い壁じゃ意味ないだろうに。近所の人に噂されるくらいでかい声で喘いでやる。

シズちゃんはあれから一言も喋っていない。ただ硬いベッドに全裸で押し倒された俺の身体を貪っている。殺したいくらい大嫌いな俺の身体はおいしい?前に聞いたら殴られたからもう言わないけど。俺は自分から殴られに行くようなマゾじゃない。

「きもちぃ、よぉ……もっと、もっとしてぇ…」

わざとらしく喘ぎ声を出すとこの男は口を歪めて喜ぶ。声は彼お好みの舌ったらず。俺の声聞いて勃起するとか耳おかしいんじゃない。
この声録音してダッチワイフ相手にヤればいいのに。どっちも無抵抗なんだから、あんまり変わらないだろうに。
やっぱり思考回路は童貞のままだ。全然気持ち良くないんだよ。馬鹿の一つ覚えみたいに乳首ばっかり吸ったり、舐めたりつねったり。お陰で普段、服に擦れて痛い。そこだけでかくなった気がするし。

「やだぁ…乳首、おっきくなるっ…」
「勝手になってろ淫乱」

酷い言われようだ。しかしテンプレ式な言葉しか返ってこないと流石に飽きてくる。シズちゃんって単純なんだよね。性格だけでなくセックスも。

「あぁんっ…あ、あぁっ…」

それで勃つ俺はもっと単純か。乳首を弄るのにようやく飽きたらしいシズちゃんは、自分の性器を取り出してそれを俺の乳首に擦り付け始めた。
お前どれだけ乳首好きなんだよ。先走りがねちゃねちゃして、まぁ気持ちいいかな。そのまま腹や腕、首筋に擦り付けると俺の眼前に差し出してきた。ホント、切り落としてあげたいね。
「……おっきぃの、ちょうだい?」

恥ずかしがるように上目遣いでシズちゃんを見ながら、先端をちろちろと舐める。それだけで先走りの量が増えた。ホントに単純な奴め。
しばらく舌で舐めていたけど、シズちゃんは突然俺の頭を掴むと口内に性器を出し入れする。前後に腰を振って、まるで俺の口はオナホールだ。指が耳の後ろを撫でたりするから背筋がゾクゾクする。
じゅぷじゅぷと気持ち悪い音が早くなったかと思うと、勢いよく性器を抜かれて精液を顔面にかけられた。

「あついぃ…」

頬を流れる精液の感触が気持ち悪くてたまらない。この匂いにはいつまで経っても慣れない。
どうやって拭こうかと考えていると、シズちゃんは自分の指でそれをすくい俺の口に押し付けてきた。飲ませるつもりなら最初から口の中に射精したらいいのに。

指についた精液を舐めとりながら、わざとらしく喉を鳴らして飲み込む。
それを見ていたシズちゃんもごくりと喉を鳴らした。口内の唾液を指に絡めながら、俺の足を肩にかける。この体勢辛いから嫌なんだけどなぁ。

「もう濡れてるじゃねぇか……この変態が」

シズちゃんの視線は尻に向けられていた。馬鹿か、尻の穴が濡れるわけない。濡れてたらそれは病気だ。ローションに決まってる。
お前に呼び出されたときは毎回自分で慣らしている。隠れた努力を褒めてほしい。初めて犯されたとき、大した知識もないくせに自分のが勃てば突っ込もうとしたこの男に驚いた。

唾液に濡れた指で穴の周りを撫でられる。会う前に自分の指やバイブで慣らしていたから、そんな刺激じゃイけない。

「はや、くぅ…おっきぃ、の…いれてぇ…!」

自分でひくつく穴を広げると、シズちゃんはまた勃起し始めていた性器を押し入れてきた。事前に慣らしてもキツいな。

「あ、あ、あぁ、あぁんっ!」

揺さぶられながらさてこいつは何分もつだろうかとカウントする。早漏だからそんなもたないかな。
自分の尻から赤黒い性器が出入りする光景はなかなか見れない。というか見たくない。
シズちゃんがちょっと角度を変えて突いたら、ちょうど前立腺に当たった。さすがにそこは気持ちいい。何回もしてるんだからいい加減場所覚えろよ。

「ひあぁぁっ!そこ、いいよぉ…もっと、もっとぉ…」

この前見たAV女優の真似して喘げば、中の性器がまた大きくなった。でかさだけは尊敬する。それが使われるのが俺だなんて可哀想な息子だ。
シズちゃんはもうイきたいのか激しく抽出を繰り返した。そんなに腰掴まれたら痣になる。天井の染みが涙で霞んできた。心と身体は別物だと、こんなとき身を持って体感する。心の中でいくら馬鹿にしていても、勃起するし気持ちいいと素直に思う。俺も結局は単純なんだ。

「イく…イく、からぁ……そんなしちゃ、らめ…ひぁぁっ!」
「……っ」

腹に付くくらい勃ち上がった性器の先端に爪を立てられて、目の前がチカチカとした。腹に感じた生暖かさに自分が射精したんだと気付く。続いて中に感じる違和感。こいつもイったんだ、と思っていたらぼんやりとした顔のシズちゃんがキスしてきた。触れるだけの、幼稚なキス。

「臨也……」

誰も見たことがないシズちゃんが面白くて、今日も俺はこいつに抱かれる。

いつも変わらない誘い文句。いつも変わらない行為。何も残らないセックス。俺もいつもと変わらない。


唯一変わったのは、キスをするとき目を閉じるようになったシズちゃんだけ。
















なんて童貞くさい静雄。


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