もぞりと、隣で何かが動く感覚に目が覚める。まだ霞んでいる視界の中で黄色い何かがゆらゆらと動いていた。あれ何だろう。 しばらくすると頭も覚醒してきて、その黄色は下着だけ穿いて一服しているシズちゃんの頭だと分かった。そう言えば昨日シズちゃん家に泊まったんだっけ。泊まって、そのまま。 急に腰のだるさを思い出す。筋肉痛とは違うこれに慣れる日は、果たして来るんだろうか。来たら来たで嬉しくないが。 まだ身体を起こす気になれなくてベッドに身体を沈めた。シズちゃんの家は壁も薄いし、布団も固いから疲れてしまう。でも、シーツに染み付いたシズちゃんの匂いは嫌いじゃない。 また眠くなってきて寝ようとしたら、頭に手を置かれた。邪魔だからどけようとしたけど、そのまま頭を撫で始めた。人に髪の毛を触られるは好きじゃないが、シズちゃんは別だ。普段あんなに乱暴なのに、こういう時は驚くほど優しい。俺より大きな手はそのまま顔に降りてきた。 「ん……」 頬に触れる手の感触が気持ちよくて、思わず声が出た。起きているとバレたと思ったが、シズちゃんの手は頬をくすぐるように撫でてくる。 セックスも好きだけど、こういうのも好きだ。シズちゃんが意味なく触れてくるのは、甘えたいときの癖だと気付いたのはいつだったか。 唇に押し当てられた手の甲に口付ける。すると突然、くるまっていたシーツごと床に落とされた。 「いでっ!」 落ちるときにベッドの角で足をぶつけてしまった。今のは絶対痣になる。 「な……何急に!」 「寝たふりする手前が悪いんだろ」 シズちゃんは悪びれもせずに口から白色の煙を吐き出した。それは天井に消えていく。くわえていた煙草を床に置いてあった灰皿に押し付け、床の上に転がっている俺に手を差しのべてきた。 「……」 立てって意味なんだろうが足が痛くて立てない。無視してまたベッドによじ登ろうとしたら、いきなり身体を抱え上げられた。いつもは肩に担ぐのに、今日は俗に言うお姫様だっこ。思わず下半身を手で隠したが、シズちゃんは気にせず歩きだした。 「……どこ行くの」 「シャワー」 たしかに汗でべたべたしている気がする。そんな気遣いできたなら前からして欲しかったと内心思いながら、大人しく抱き抱えられる。 脱衣所に着くとシズちゃんは立ち止まったまま動かない。どのみちお互い全裸なのだから後は入ればいいだけなのに。あぁシズちゃんは下穿いてるのか。 「……あ」 シズちゃんは小さく声を上げる。どうしたのかと顔を見れば目が合った。 そしてそのまま思い出したように唇にキスしてきた。昨日の夜したのとは違う触れるだけのキス。目を閉じずに意外に綺麗な瞳を見つめていたら、軽くリップ音を立ててシズちゃんは離れていった。 「おはよう」 「……は?」 「いや、言ってなかったからよ」 「へ、へぇ……」 そう言えばいつもはこんな事しないくせに、どうしたんだろうか。急に恥ずかしくなって、首筋に顔をうずめる。ベッドに寝ていたときよりも、シズちゃんの匂いがした。当たり前だけど。 俺ばっかり照れて悔しいと思っていたら、シズちゃんの耳は見たことがないくらい赤くなっていた。 ……お分かりいただけただろうか? 私は甘いのが書けない。 |