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間接キスくらいいいだろ!





静雄は誰もが認めざる得ないほど臨也好きだった。むしろ認めないと脅された。確かにあいつに変な信仰心を持つ奴や、好意を抱いてる奴は多い。だがそんなものとは比にならないくらい、静雄は『純粋』に臨也が好きだった。

「シズちゃん……」
「臨也……」

お互い見つめ合ったまま動かない二人を見て、俺はどうしたものかと頭を抱えた。

数分前。食堂に行くと言い出した臨也に、俺は強制的に同行させられた。今日はパンにすると鼻歌混じりに上機嫌な臨也だったが、途中で教室に財布を忘れたことに気付いたらしい。
まだ教室を出たばかりですぐに戻ったのはいいが、臨也は入口の所に立ち尽くしていた。どうしたのかと中を覗くと、臨也の視線の先には静雄がいた。

何かを探しているのだろう。無我夢中に机の中に手を入れていた。おかしいのはその机が臨也の席だと言うことだ。当然中に入っているのは臨也の私物なわけで。
ふと教室にいた生徒に目配りすると、何も言わずに目をそらされた。どうやら静雄のこれは今回が初めてではないらしい。
静雄は机の中からさっきの授業で使ったある物を取り出して、正直俺でさえ鳥肌が立つような笑顔を浮かべた。もっと簡単に伝わる表現はあるが、静雄の為にも遠回しに言おうと思う。

そのまま当然のようにそれを持ち去ろうとしたが、やっと臨也と俺の存在に気付いたらしい。
臨也の視線は痛いほど静雄の手に注がれている。

「……その手に持ってるのは何かな、シズちゃん」
「手前のアルトリコーダー」

とりあえず少しは焦ってもいいはずだが、あまりにも静雄は堂々としていた。そして僅かに苛立っている臨也を不思議そうに見ていた。

「……何でシズちゃんが俺の笛なんか持ってるのかな?」
「吹き口舐めるた」
「ごめん聞いた俺が悪かったそれ以上何も言わないで!ってかもうそのリコーダーいらないから!」
「マジかよ……舐め放題じゃねぇか」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」

臨也は悲鳴を上げるとやっぱり返せと静雄に飛びかかりに行った。
人の愛情表現なんて人それぞれで、口出しする気は一切ない。それが同性だろうと、だ。だが静雄のは口出しせずにはいられなかった。とりあえず臨也は静雄に対して特別な感情を抱いていないらしい。
静雄はその冷たい態度を照れ隠しだと言い張るが、少しキツいものがある。どこの世界に好きな相手の机を窓から投げ落としたり、その本人を屋上から突き落とすのだろうか。

「やだ、捨てるから返して!」
「捨てるなら俺が有効活用してやるって。エコだろエコ」
「んなエコ、地球も喜ばねぇよぉぉぉぉぉ!!」

身長的に静雄が腕を高く上げれば臨也には届かない。いくら身軽な臨也でも静雄相手には太刀打ちできないらしい。爪先立ちで必死に腕を伸ばしたり、ジャンプしてみたりしているが頭を押さえつけられたりしていた。

「ん……んぅ、このっ」
「……」

だんだん真顔だった静雄の顔が崩れていく。もう遠回しな言い方はできない。俺から見ても静雄は不気味で気持ち悪いものだった。にやにやと笑いながら臨也が必死に取り返そうとしている姿を眺めている。そのときだった。

「ふぎゃっ!」
「あ、」

ほとんど爪先で立っていた臨也はバランスを崩したのか、倒れ込んでしまった。目の前でさっきから顔をにやつかせてた静雄の胸に。

「……」
「……し、シズ……ちゃん」
「大胆だな……」
「うぎゃあああああああっ!!」

静雄は胸に倒れ込んできた臨也の背中に腕を回すと、そのまま抱き締めてしまった。
力を込められたのか、それとも嫌悪感による悲鳴かは分からない。とにかく臨也は静雄の股間を力いっぱい蹴り飛ばすと、そのまま教室から出た行ってしまった。

「うぁぁぁぁぁっ!気持ち悪いよぉぉぉぉぉっ」

廊下には臨也の悲痛な叫び声がいつまでもこだましていた。
静雄といえば、リコーダーを握り締めながらうずくまっていた。これからも授業で使うそれを静雄から取り上げる。俺は別にどちらの味方をしたいだとかいう考えはなかったが、この日を境に俺は臨也の肩を持つことにした。






(窃盗は立派な犯罪だしな……)









好きな子のリコーダーを吹くってよく考えたらすごく怖いよねっていう。

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