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綺麗な君と






バスローブに身を包んだ臨也は、黒く艶のある髪から雫を滴らせていた。男に対して綺麗だとか色気を感じたことはないが、今臨也に対して抱いてるのはそれだろう。ソファから立ち上がったときに見えた足は、相変わらず白くて細かった。

「ちゃんと綺麗にしてきてね?新しいボディーソープ買ったからよかったら試して」
「なぁ、臨也……」
「5回。ちゃんと5回洗ってね。念入りに、洗い残しなく」
「……」

臨也は真剣な顔で念を押すように言った。新しいバスタオルを胸に押し付けられる。それからは嗅ぎ慣れた柔軟剤の匂いがした。


臨也は自身を重度の潔癖症なのだと口癖のように語っていた。普段の生活では見た限りあまり気になることはない。たまに他人とぶつかると物凄く嫌そうな顔をするが、それは俺だってする。唯一気になると言えば俺の食べかけを食べたり、同じ箸やコップは絶対に使わないことくらいだ。


先ほど臨也が入ったばかりの浴室には独特の生温い湿気がまだ残っていた。それに混じるように香る石鹸の匂い。いつも臨也からする匂いだ。
風呂場に備え付けられている棚には様々な種類の石鹸やシャンプー、ボディーソープが置かれていた。中には薬用と書かれたものまである。それも業務用サイズだ。
臨也が言っていた「5回」と言うのは洗う回数だ。髪は1回でも良いらしいが身体は3回。そして下半身は5回だった。

臨也と性行為をしたのは20歳を越えてからだ。もっと以前から付き合いはあったが、性行為どころかキスすら数えるほどしかしていない。
それもお互い歯を最低3回は磨いてから。臨也が寝ている隙にしようとしたこともあったが、どういうわけかあと少しのところで目を覚まし烈火の如く怒鳴られた。それから口内に潜む菌の数や恐ろしさを正座して語られた。

それでも自覚するほど短気な俺が我慢できたのは、そんな臨也でも好きだからだ。キスを拒まれても、過度の接触を避けられても、あいつが隣で笑っているなら耐えられた。最初は。
もう6年近くこの状態が続いている。臨也を好きなことに変わりはないが、やはり不安に感じることもあった。キスも触れることもできず、好意を言葉で表現されることもない。

キスで勝手に舌を入れるのも駄目。意味なく肌に触るのも駄目。頬にキスするのももちろん駄目。入れるときは必ずゴムをして。フェラなんかしようものなら、途中だろうと中断する。

気が付くと駄目なことばかりになっていた。守らなければ性行為はしばらく禁止。今日だって1ヶ月ぶりだ。会ったのは何日ぶりだっただろうか。

シャワーを持とうとしていたはずの手は、気付くと浴室のドアを開けていた。





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