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例えばこんな



いつもとちょっと違うよ!















初めて座るソファのふわふわとした感触に少なからず感動しながら、目の前に同じようにして座るサイケに目を向ける。
初対面であることは間違いない。それにも関わらず心の中に湧いてくるのは、覚えのない苛立ちと憎しみだけだった。他の人間を見てもこんな感情は抱かなかった気がした。いや、さっき会ったこれとよく似た顔の男にも同じことを思ったかもしれない。

「あ、あのつがる……」
「話しかけんな。あと馴れ馴れしく名前呼ぶんじゃねぇよ」
「……うぅ」

何故か言葉が乱暴になってしまう。初対面の相手に対して失礼だとは思ったが、目に見えて怯える姿を見ると不思議と心が落ち着いた。
お互い名前だけを言い合うと、後はサイケからの一方的な問いかけが続いた。というよりは俺に会話をする気がないので、自然と一方的になっていた。
何しろ意味の分からない質問ばかりしてくる。猫と犬どちらが好きか、晴れと雨はどちらが好きか。そんなもの教えたところで何もない。
だから全て『どうでもいい』と答えた。とうとう右向きと左向きどちらの方が寝やすいか、という質問の後サイケは控えめながらにこう尋ねた。

「おれのこと、きらい?」
「好きなわけねぇだろ」

むしろ会って一時間程度しか経っていない相手に、どうすれば好意を抱けるのか不思議だった。特にこいつは気に入らないと、何となくだが思った。

「……そっか」

そう一言呟くと、サイケはソファの影に隠れてしまった。これで少しは静かになるだろう。また部屋の中を観察していたが、変に居心地が悪いと言うか罪悪感を感じ始めた。最初は目の敵にして気分が良かったにも関わらずだ。
仕方なく様子を伺うためにソファの後ろに回り込むと、膝を抱えるようにしてサイケは泣いていた。

「な、何で泣いてんだよ」

まさか泣いているとは思わなかった。真っ赤にさせた鼻をコートの裾で拭いていた。服が汚れるから止めさせようと腕を掴むと、大袈裟なくらい肩が揺れて涙目で見つめられた。

「ごめん……ごめんなさい。な、なきやむから……きらいに、ならないで……」

ぐずぐずと泣きながら、掴んでいない方の袖でまた涙や鼻水を拭き始めた。まるで、子どものようだと思った。

「……嫌いじゃねぇ」
「え……」
「す、好きじゃねぇけど、嫌いでもねぇよ」
「……」

自分は何を言っているのだろうか。泣かれるのが面倒だから、とっさに言ったに違いない。
近くにあったティッシュで鼻をかませた。見た目がどう見ても子どもと呼べる大きさではないので、それは何とも奇妙な光景だった。

「ぐすっ……あ、ありがと」

ふにゃりと、締まりのない顔でサイケは笑った。それを見た瞬間さっきまでの怯えた表情や泣いた顔とは比べ物にならないくらい胸が高鳴った。もう自分で自分が分からない。自分はこれが憎いのだろうか、それとも。気付くとサイケの涙で濡れた頬に口付けていた。肌は柔らかくて温かくて、涙のせいか塩辛い味がした。

「わ、わりぃ」

悪いと言うわりにはずいぶん長い時間口付けていた。慌てて自分の着物の裾で触れた場所を拭こうとすると、サイケにその手を握られる。俺の手と顔を交互に見比べては、ぱちぱちと瞬きをした。気持ち悪く思われたに違いないと内心焦っていると、サイケの顔が近付いてきた。
薄い桃色をした唇が素早く俺の頬に触れて、そして離れていく。

「……つがるの、まね」

自分からしたくせに、サイケは顔を真っ赤にして目を背けた。俺の顔にも熱が集まるのを感じる。思った以上に唇が柔らかかったかもしれない。他人の頬に触れたのも、自分の頬に触れられたのも初めてだった。
気まずさをごまかす為に何か話題を考えたが、よく考えると自分は口下手だった。

「つ、つーか何で一人称おれなんだよ。手前女だろ」

とっさに思い付いたのが、これだった。もっと他になかったのだろうか。しかし他人のことをとやかく言うつもりはないが、こいつには似合ってないと思った。こんな弱々しい見た目では余計に弱く見えてしまう。

「え……?おれ、おとこだよ?」
「……は?」

いや、まさか。
唖然とする俺の右手を掴まれ、胸の辺りに手のひらを押し付けられる。確かにそこには、本来多少はあってもいいはずの膨らみはなかった。いや、世の中には真っ平らな人間もいると聞く。だがたしかに女にしては声が低いと感じた。でも、いやまさか。

「わ、わかりにくいかな……これでわかる……?」

押し当てられた場所は、ちょうどズボンのファスナー部分。嫌でも分かる下半身の膨らみ。もしかすると何か入れているだけかもしれないと、試しに右手に力を込めてみた。

「ふ、あぁっ」

サイケの今までとは違う声、真っ赤な顔で俺を見つめる瞳。本来なら自分と同じ男である事実に顔を真っ青にしているはずが、どうしてか熱が出たのではないかと思うくらい顔は熱くなるだけだった。








(つ、つがる……)
(な……何だよ)
(いまの、もっかいして?)
(!?)















いつもと違うつがサイを書いてみたくて。津軽をシズちゃんに近付けてみた。気付けば若干、変態紳士になっていた。
むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。

この後サイケたんはコートを汚したことを、ママ(臨也)に怒られる。
津軽は寝込む。


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