小説 | ナノ
お酒の魔法1


最初から最後までやおい。
静雄と臨也がなんか仲良し。




新羅の方から連絡をよこすのはいつぶりだろうか。携帯から聞こえるうるさい声をコーヒー片手に相手する。鬱陶しいほどのセルティ語りに満足したらしい新羅は、唐突に要件を話しはじめた。

『そういえば同窓会、君はどうするの?』
「……え」
『高校のだよ。連絡来たんじゃないの?まぁ僕は行かなくてもいいんだけど、セルティが思い出になるからって勧めてくれたんだ』
「同窓、会……」

どうそうかい。
調べなくても意味は分かる。学生時代の同じクラスの人間が生きてるのか死んでるのか、今何してるのかなどと探り合いをする会だ。まったく興味がない。興味がないがそれ以前の問題だ。
俺にはそんな連絡、来ていない。

「あ、あぁ。俺ちょっと忙しくて行けない。ドタチンとか行くんじゃないの?」
『あぁやっぱり。門田君も行くらしいから、もし都合がついたら来なよ』
「……うん」

呆然としたまま電話を切った瞬間、ものすごく嫌な汗を背中にかきはじめた。どういうことだ、新羅に来て俺に来ないなんて。

「いや、いやいや……俺の職業柄そんな簡単に家ばれても困るし……」

必死に頭は言い訳を考える。こういうの何て言うんだっけ。現実逃避。

「……シズちゃんも、たぶん来てないよね」

俺の頭は必死に言い訳を考えた結果、導き出されて答えはシズちゃんの存在だった。そうだ、心配しなくてもあの男の存在がある。恐らく連絡先を知っていてもシズちゃんは誘われるわけがない。
根拠のない自身に満ち溢れていたが、気付くと俺は池袋行きの電車に乗り、シズちゃんの会社の前にいた。

「同窓会?あぁ、どっかの居酒屋でするんだろ」
「え、あ、あるの知ってたの?」
「何言ってんだ、当たり前だろ」

休憩中に優雅に煙草を吸っていたシズちゃんにそう告げられた瞬間、愕然とした。
自分に気の知れた友人が少ないことは承知の上だ。だがまさかシズちゃんにまで連絡が行っていたなんて。

「手前は行くのか?」
「……俺行かない。仕事あるから」
「……そうかよ」

呼ばれてもない奴が行っても変な空気になるだけだ。腹いせにシズちゃんのシャツを切りつけて帰ってきた。
それから自分でも驚くほど冷静にパソコンに向かっていた。最近気付いたのだが、俺はイライラすると衝動買いをするらしい。今はひたすら鍋の材料になりそうなものをネットで買っていた。同窓会の日に外を出歩けば誰かに会うかもしれない。それなら家にいる方が楽だ。

「……別に悔しくなんかないし!拗ねてないし!寂しくなんてないし!」

新羅から電話をもらいシズちゃんに会って今帰宅するまでずっと事務所にいた波江は、可哀想なものを見る目をしながら同窓会当日の休暇届を提出してきた。




数日後、注文していた商品は全て届いた。テーブルの上が鍋の準備が完璧にできていた。そこに材料をどんどん放り込んでいく。

「シズちゃんも行ったのかな……ドタチンと、新羅と、三人で仲良く……いや、他にもいるけど」

ぶつぶつと文句を言いながら鍋をつつく。一人しか食べないにもかかわらず、鍋の中は具であふれていた。これはしばらく鍋が続くだろうに。肉をお皿に盛っていると、インターホンが鳴った。

「誰だよもう、俺は今ここにいないの」

もちろん無視だ。俺は現在外出中。どこかで取引をしている予定なのだ。誰が来たのかも確認せずもくもく食べる。
インターホンは結構な回数鳴らされたが10分ほど鳴り続けて終わった。ずいぶん迷惑な勧誘だ。
テレビでも見ようと立ち上がると、玄関の扉がおもちゃのように外された。それからシズちゃんが当然のように中に入ってきて、またドアは同じ位置に置かれた。
この男には正しいドアの開け方を教えないといけないのか。

「……何でシズちゃんいるの?同窓会は?」
「はぁ?俺がそんなもん行けるわけないだろ。それよりお前、仕事じゃねぇのかよ」
「し、仕事が早く終わったからご飯食べてるの!シズちゃんには関係ないだろ」
「……まぁな」

妙な空気が室内を漂う。そういえばシズちゃんはどうしてここに来たのだろうか。俺が同窓会に誘われてないの、知ってたのかな。

「……ご飯食べたの?」
「まだ」
「……いっぱい作ったから食べてもいいよ」

もしかしたら誰か来てくれるかもしれない。そんな期待を抱きながら用意した皿を渡すと、シズちゃんは何も言わずに食べ始めた。








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