小説 | ナノ
臨也+津軽






俺はこの人が苦手だ。

「ふーん。で、またここに来たんだ」

サイケと見た目はそっくりなのに、中身は全く違う。同じ顔で笑っても、サイケの笑顔はあんなにも心が温かくなるのに臨也さんはどこか冷たい。

「今すごく失礼なこと考えてない?」
「そんなことありません」
「あ、そう」

この勘の鋭さも少し苦手だ。
俺が困ったときここを頼ってしまうのは、他に当てがないからだ。本当は静雄さんに言いたいのだが、彼はそういった色恋事が苦手らしくまともな会話にならない。他の人に相談できる内容でもない。最終的に残ったのがこの人だった。
交遊関係は広げておくべきだとつくづく思う。それでもきちんと意見をくれるのは確かで、参考に聞きに来てしまう。

「それで、好きで好きでたまらないあの子に、好き好き言われて嬉しいけどどうしたら分からなくて来たんだったね。そんなの簡単じゃないか。二人で仲良くベッドの上であんあん腰振ればいいんだ。気持ちいいこと一緒にすれば一気に距離が縮まると思うよ?」

結構な頻度で下品なものが多いのが欠点だ。仮にもサイケと似た顔から恐ろしいくらい下品な言葉がすらすらと出てくる。それは聞いていてなかなか耐え難い。

「……そんな変な想像しないでください。俺はただ、純粋にサイケが好きなだけです」
「……恥ずかしいこと平気で言うのは、あいつと変わらないね」

臨也さんは独り言のように呟く。あいつと言うのは静雄さんのことだろう。本人に直接聞いたことはないが、臨也さんは静雄さんのことが好きなんだと思う。静雄さんの話をするときたまに、本当にたまにだがサイケと同じ顔をする。
あの子が俺に、好きだと囁くときの顔。

「でもさ真面目な話、好きって言って無反応で返されるのは結構悲しいんじゃないかな?自分がされて嫌なことは人にしちゃいけませんってよく言うでしょ」
「……はぁ」

後半はこの人に言われたくないと思う。気に食わないが全くの正論だった。もし俺があの子に好きだと言って拒絶されたら、少なからずショックを受けて、しばらく歌えなくなるだろう。

「正直に言えばいいんじゃない?」
「……」
「まぁた大事だから?そんな理由なら一緒にいない方が幸せだよ。好きな人と一緒にいるのってさ、案外しんどいし」
「……そうなんですか」
「そうそう。この前だってさぁ……」

だんだん臨也さんの意見のような気がしてきた。実際彼は頷きながら愚痴を溢し始める。
俺と話してるのに上司に呼ばれたらそっち行くくせに、俺がドタチンにベタベタしたら怒るとか理解できない……とそれは2時間以上続いた。

「すみません、そろそろ帰ります」
「え、あぁもうそんな時間?」

そう切り出せたのは、4杯目のお茶のお代わりをもらったときだった。大きな窓の外は空が赤くなり始めていて、ここから帰ると完全に陽が暮れてしまう。サイケは大丈夫だろうか。
「それじゃ、いつものお願い」

臨也さんはイスから立ち上がると、ソファに座る俺の横に腰かけた。よく分からないが、臨也さんは相談料としてお金の変わりにこれを毎回要求してくる。

「……好きだ、臨也」
「……っ!俺もだよシズちゃん!!愛してる!」

目を見つめながら棒読みでそう言えば、顔を真っ赤にして抱きついてくる。似た見た目をしていてもこの人はサイケではない。逃げるようにすかさず立ち上がると、臨也さんはそのままソファに倒れ込んだ。

「かっこよすぎるんだよもう!煙草くわえる仕草とか、動物には優しいとかホントに好きだよシズちゃんっ!」

俺にはよく分からないが、おそらく俺越しに静雄さんを見ているのだろう。俺も不器用だが、この人たちもずいぶん不器用な性格をしている。

「臨也さんも正直に言えばいいんですよ」
「……うるさい」

照れた顔はなるほど、静雄さんが可愛いというのも納得できた。


(まぁ、サイケの方が可愛いけど)

















『いい子』の津軽がお出かけ先です。
シズちゃんに恋愛相談すると、恥ずかしがって物投げられるよ。ちなみに津軽はサイケ以外には敬語だよはぁはぁ
シズ→←←イザくらい。


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