小説 | ナノ
朱隠し2





深夜。電気一つついていない自宅をふらふらと歩いた。高校に入ってから一人暮らしで、俺の変化に気付く人なんていない。学校の人間は適当にあしらえば済む。シズちゃんが出て行ってから、俺はずっと考え事をしていた。何もする気になれなくて、暗くなった今も電気をつける気にはなれなかった。眠れば楽になるのかもしれない。それなのに呼吸が苦しいせいか、それは叶わなかった。ふと手に冷たい何かが触れた。それは、今日まで必死に飲んできた栄養剤だった。たくさんの種類があるそれは、飲み過ぎてもう効かなくなっているのかもしれない。そういえば最近、まともな食事をしたのはいつだっただろうか。

「……頑張った、つもりだったのに」

栄養剤と一緒に新羅からもらったサプリメントを壁に投げつける。瓶が割れて、中身が床に飛び散った。どのみち片づけるのは自分なのに。砕け散ったガラスを拾う気なんて最初からなかった。

「……シズちゃん」

きっと今頃俺の代わりを見つけているのだろうか。もしかするとすでに代わりを見つけていて、それで俺を見限ったのかもしれない。その方が辻褄が合うような気がした。血を吸われ抱かれた後の気怠さも、シズちゃんの満足そうな顔を見るだけでどうでもよかった。俺はその日初めて泣いた。泣くという行為をしたのは何年前だっただろうか。泣いてから自分はまだ涙を流すことができたんだなと、ばかばかしいことを考えていた。あの時身体が辛いのを我慢して引き止めれば何か変わっていただろうか。這いつくばって行かないでと懇願すれば、彼は嘲笑いながらも俺を捨てはしなかっただろうか。シズちゃんは少しでも俺のことを気に入ってくれていたのだろうか。俺には分からなかった。


それからしばらくして、血を吸われていないせいか俺の体力はどんどん回復していった。それに比例するように、シズちゃんは学校へ来なくなってしまった。一応学校には連絡が来ているみたいだけど、なぜ休んでいるのかは知らない。そんなとき、新羅に様子を見に行くように言われた。何があっても嫌だった。第一俺が行く理由がない。

「だって君たちは友達だろう!」

わざとらしいほどに嫌味を込めて言われ、教師の頼みもあっていくことになってしまった。教師から教えてもらった地図にある家は、本当に普通の一軒家だった。大きな門があるわけでも、烏がたかっているわけでも、昼間なのになぜか空が暗いわけでもない。試しにインターホンを押すと普通に母親が応対した。俺の姿を見ると嬉しそうにシズちゃんの部屋へと案内してくれた。彼女も人間ではないのだろうか。見た目では全く分からなかった。
シズちゃんは、カーテンの閉め切った部屋にいた。ベッドに座って、俺の方をじっと見つめていた。居心地の悪さを感じながら預けられていたプリントを渡す。どうしてお前が来たんだと問いただされると思ったが、シズちゃんは頷くだけで何も言わない。

「……シズちゃん、代わりは見つかったの?」
「……」

シズちゃんは答えずに、ギリリと歯ぎしりをした。本当に体調が悪いのか、顔色はあまりよくない。痩せたわけではないが、やつれた様な印象を受けた。すでにガーゼも貼っていない首筋を指でなぞる。シズちゃんの喉が、ゴクリと音を立てた。状況から推測するに、彼はしばらく血を吸っていないのだろう。

「……見つかるまで、俺のを吸えばいいよ」
「……」
「そんな価値も、俺にはない?」

シズちゃんは答えない。俺は胸が苦しくて仕方がなかった。

「……そっか」

軽い気持ちで聞いてみたつもりだったが、自分は予想以上にショックを受けているようだ。目的は達成できたし帰ろうと数歩下がったとき、シズちゃんにしては小さすぎる声で何か囁いていた。

「……駄目なんだよ」
「……え?」
「俺がお前の血を吸えば、お前は……また」

そこまで言ってシズちゃんは口をつぐんだ。俺は居心地の悪さに無意識に唇を噛んでいた。

「俺は、血を吸えるなら誰でもいいわけじゃねぇ」
「……そうなの?」
「自分の気に入った相手じゃないと、うまく感じない。でも血を吸うと身体が熱くなるから……」
「そうなんだ。じゃあ女の子相手だと大変だね」

突然何を言い出すのかと思えば、今さら何の説明だろうか。シズちゃんの体質やそういった話に興味がなかったわけではないが、シズちゃんという存在の前ではどうでもよかった。たとえ殺されることになっても俺は喜んで受け入れていただろう。

「お前、今の話聞いて気づかないのか」
「……?」
「俺がお前の血だけ吸ってる理由」
「……」

何を言われているのか分からず、さっきシズちゃんが言った言葉を思い出す。シズちゃんは血を吸う度に身体が熱くなる、つまり欲情してしまうのだろう。それと気に入った相手の血しかおいしく感じない。つまり気に入らない相手の血はまずい。つまり。

「……嘘だ」
「嘘じゃねぇよ」
「そんなわけない。俺は、都合のいい餌のはずなんだ」
「……そんな風に思ってたのかよ」
「だって、シズちゃん酷いことばっかりした」
「それはまぁ、俺が悪いのか……」

シズちゃんは変な声を出しながら布団に沈んだ。それからぶつぶつと独り言のように話し始める。血を吸うと理性がなくなってしまうこと。特に気に入った相手だと性欲の方へそれがいってしまうこと。今までそんな相手いなかったから、自分でもどうしたらいいのか分からないと悩んでいること。弱っていく俺を見て、何とかして吸うのをやめようと必死になっていたことを。

「とにかく、しばらく近寄るな。今は元気なんだろ」
「う、うん……でもシズちゃんは大丈夫なの?」
「別に吸わなかったらすぐ死ぬわけじゃねぇ。ただあんまり動けなくなるだけだ」
「俺に会う前はどうしてたの?」
「弟の、吸ってた」
「……弟いるんだ」
「おぉ。普通の人間だけどよ、小さいころから少しずつもらってた」
「そうなんだ」
「でも、今度は幽が倒れちまうな」

力なく笑うシズちゃんは本当に弱っているのか、俺が倒れたときみたいだった。それを見ているのが何だか辛くて、思わず抱きしめると振り払われることもなく大人しくされるがままになる。久しぶりに感じたシズちゃんの体温。前は冷たく感じたが、今はとてもあたかい。

「……怖いんだ」
「……」
「もし、このままお前の血だけ吸い続けて、死んだら?気絶したまま目を覚まさなかったら?」
「……シズちゃん」

シズちゃんの肩は震えている。顔を見ようとしたが抱きしめられているせいで、それは叶わなかった。

「吸って、シズちゃん」
「だから俺は……」
「俺は折原臨也だよ。それくらいで死ぬわけないだろ?」

自分の指先を思いっきり噛むと少しだが血が出てきた。それをシズちゃんの唇に触れさせる。目に見えて上下する喉元。恐る恐る伸ばされた舌が、丁寧に血を舐めとっていく。それをすべて舐めとると、シズちゃんは俺をベッドに押し倒した。口を大きく開けて、首筋へと顔を埋める。そしてぶつりと皮膚の裂ける音がした。前は痛かっただけの首筋の痛みが甘く感じる。血を吸いながらシズちゃんの手は服の下へと潜り込み、必死にベルトを外しにかかってきた。それを手伝ってあげながら裸になると、ベッドへと押し付けられる。少し満足したらしいシズちゃんは吸うのをやめると自分も脱ぎ始めた。お互い裸になったところでこの家には二人だけでなく、下にはシズちゃんの母親がいることを思い出した。

「ん、あ……聞こえる、よ……?」
「別に聞こえてもいい」
「よくな、い……あぅ」

首筋を噛んでいた流れでそのまま肌に舌を這わせながら胸元へと移動していく。乳首を唇で噛むと、そのまま吸われてしまう。そんなところ丁寧にされたことはないが、ここでこんなにも感じるとは思わなかった。すでに勃起し始めている性器をシズちゃんに擦り付ける。お互いのカリや袋が擦れるたびに腰が震えた。

「気持ち、よぉ……」
「そうか。いつもごめんな、余裕なくて」
「悪いって、思ってるなら……これからは、優しくして、よ」
「……分かった」

言葉通り、シズちゃんはとても優しく俺を抱いた。ローションがないからと唾液で穴を解され、指が3本入ってもまだ慣らしし続けている。最後には直接舌を差し込んでぐちゅぐちゅと中を犯された。例えようのない感覚に腰が震え、俺はシーツへと射精した。それを可愛いと言いながらシズちゃんは俺の足を開かせる。精液で汚れた太ももや腹を撫でながら、ゆっくりと大きく勃起した性器が入ってきた。久しぶりに感じる圧迫感すら気持ちよくて仕方がなかった。下の階に人がいることも忘れ、ひたすら行為に浸った。
お互い手を繋いで腰を振って、何度も中に熱が広がる感覚を味わった。はしたなく声をあげてもシズちゃんは嬉しそうに頭を撫でてくれた。シズちゃんはずっと優しくて、嬉しくてやめられなかった。気付いた時には腰は酷く重く感じ、自力で立つことができなくなっていた。そんな俺の腰を申し訳なさそうに撫でながら、シズちゃんはさっき血を吸うために噛んだ首筋をひたすら舐めていた。

「シズちゃんくすぐったい」
「わりぃ……でも舐めると治るって言うだろ」
「だからって舐めすぎだよ」

消毒のつもりなんだろう。そんなことをしても大して変わらないのだと思うのだけど、くすぐったい感触が嫌ではないからそのままにしておいた。目の前でゆらゆらと動き金髪を抱きしめると、同じように抱きしめ返された。肌に直接触れるシーツやシズちゃんの肌が気持ちいい。今まで何度も身体は重ねてきたが、こうしてただ触れ合うのは初めてだった。それが堪らなく嬉しい。感動に浸る俺とは正反対に、シズちゃんはまだ納得がいかないらしい。

「……ごめんな」
「もう、いいよ。シズちゃんが優しくしてくれるだけで嬉しい」
「……そうか」
「でも俺、やられっぱなしはやっぱり性に合わないみたい」

大きく口を開いて、目の前にあったシズちゃんの首筋に噛みつく。シズちゃんからは何とも言えない悲鳴が上がって、それから血を吸う頻度は以前よりも減った。

















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