小説 | ナノ
泡沫1


来神で普通に仲のいい二人。静←臨





歩行者用道路にあるコンクリートの塊の上を歩きながら空を見ると、清々しいほどにいい天気だった。片手に持ったほとんど何も入っていない学生鞄を振り回しながら、今日は何をしようかと思案する。俺にとって学校なんて義務のようなもので行っている。学生は学校へ通うべきだと思う。でも勉強をすべきかどうかは、人それぞれだ。登校時間を守るか守らないかも自由。ちなみに今の時間は8時20分であと少しでホームルームが始まる。俺の自宅から学校までそれなりに距離があった。本来なら自転車で通うべきなのだろうが、俺にはそれに踏み切れない理由があった。
鼻歌交じりに通学路を歩いていると、焦ったように横断歩道で立ち往生しているシズちゃんを見つけた。彼は同級生で、少し変わったやつだ。滅多に遅刻なんてしないくせに珍しい。苛立った様子のシズちゃんはこの前染め直したばかりの髪を掻きながら、目の前の信号が青になるのを今か今かと待っているようだった。

「シーズちゃんっ!おはよう」
「うおぉ!だからいつも急に話しかけてくんじゃねぇよ臨也!」

俺としては普通に話しかけたつもりだったが、シズちゃんは俺が背後にいたことに気付いていなかったらしい。ここの信号は大きな道路なせいか変わるのが遅い。あと少し行けば学校だが、これはもう遅刻だろう。慌てているシズちゃんを無視して自転車の荷台に座ると、さすがに怒られた。

「手前っ!いい加減自分で歩いて行けよ!」
「どのみち同じ学校なんだからいいでしょ!」

俺を振り落とそうと自転車を揺らしてきたが、信号が青になるとしぶしぶ進み始めた。俺が乗ったところでシズちゃんに負担なんてないだろう。馬鹿みたいに体力には自信があるらしい。ぶつぶつと文句を言いながら自転車を漕ぐシズちゃんの背中を眺める。
シズちゃんは短気で喧嘩っ早くて馬鹿だけど、本当はすごく優しい。学校では俺が成績良くて賢くて優しいと思われてる。でも実際は違う。俺はいつも人を見下して、心の中で笑っているような人間だ。本当は性格が悪くて救いようのない奴だけど、本当の俺を知ってもシズちゃんは前と変わらずに接してくれた。本気で俺を叱ってくれる。
そんなシズちゃんと過ごすうちに、俺は好きになってしまっていた。今まで人を好きになったことがないからどうしていいのか分からないが、とにかく気付かれてはいけないと思った。男に好かれたと知ったらさすがのシズちゃんでもきっと今まで通りにはいかない。怒りながら自転車に乗せてくれることもなくなってしまう。それだけは絶対に嫌だった。だから、俺はこのままシズちゃんの友達を演じるつもりでいたのに。



「うそ、だ……」

シズちゃんに彼女ができたのは、俺が彼のことを好きだと自覚してから数日後のことだった。シズちゃんの肩ほども身長がないその子は、黒髪を揺らしながらシズちゃんの横を歩いていた。その光景を見たとき、俺はその場から逃げだした。走って走って、そしてなぜか屋上に来ていた。前はシズちゃんとサボるのに使っていた屋上。いつもは楽しいはずのその場所が、今の俺にはとても辛かった。それでもここに来る以外宛てがなかった。
フェンスにもたれかかって乱れた呼吸を落ち着かせていると、グラウンドにひときわ目立つ髪の色を見つけてしまった。見てはいけないと頭の中で誰かが言うのに、俺はそこから目が反らせなかった。自転車を押しながら歩いているシズちゃんの隣にいるのは俺じゃなくて女の子で、どう見てもお似合いだった。遠いからよく見えないけど、きっと楽しく会話でもしているのだろう。きっとその子は気付いたんだ。シズちゃんが誰よりも優しくて、傍にいてあげたいと。

「……これで、良かったんだ」

どこに不幸になると分かっていて、そっちを選ぶやつがいるのだろう。シズちゃんは幸せへと進んでいる。俺にそれを邪魔する権利なんてなかった。

「バイバイ、シズちゃん。俺たちの間に友情があったのか分からないけど、この友情も終わりにしよう」

俺にはこのままシズちゃんと普通に接する自信がなかった。きっと彼女と別れるよう、ありもしない話を吹き込んでしまう。シズちゃんには幸せになってほしい。だから、俺がシズちゃんの前からいなくなるのが一番簡単な方法だった。同じ学校に通っているのだから姿を消すなんてことはできないけど、運よく俺とシズちゃんはクラスが違う。このままひっそりと卒業まで過ごそう。そして、卒業したら完全に俺とシズちゃんの同級生という関係もなくなるはずだ。

家に帰って自分の部屋に入った瞬間、それまで耐えていたものが溢れるみたいに俺はいっぱい泣いた。泣いたのなんて何年振りだろうかと思った。親が仕事でいないのをいいことに、声まで上げて泣いた。男同士だからと最初から望みがないように思い込ませていたが、もしかしたらと期待している面もあった。だからこそ辛くて悲しくて、シズちゃんと並んで歩く女の子が憎くて仕方がなかった。俺が女だったらよかったのだろうか、そんなくだらないことを考えてしまうほどだった。俺がもし女だったら知り合うこともなかっただろう。だからこれは、当然の結果なんだ。












長いので続きます……

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