完全にパラレル。臨也が男の子なのに妊娠してる。おまけに出産してる。それでも許せる方はどうぞ。 「もう、いつまでそうしてるのさ」 「別にいいだろ。あ、今蹴ったぞ!」 シズちゃんは仕事から帰ってきてからというもの、ずっと俺のお腹に耳を当てていた。触るのが怖いからと手は床にぴったりとつけられいる。俺は身動きが取れず、テレビに映る教育番組を見るしかない。どういうわけか、俺は妊娠というものをしたらしい。妊娠とは男の精子と女の卵子が以下略。とにかく男女で成立するものだと少なくとも俺はそう習っていた。新羅は興味深いから解剖させてくれと言ったが、すぐにシズちゃんに殴られて黙ってしまった。 そもそも男の俺にはそういう器官なんてないはずだ。だが、妊娠していると言われた時素直にうれしかった。俺にはどう頑張ってもできないことで、諦めないといけないと思っていたから。誰の子どもかだなんて聞かなくても分かった。 シズちゃんは何て言うだろうか。男が妊娠だなんて気持ち悪いと言われてしまうかもしれない。それが怖くてずっと黙っていた。でもいつまでも隠し通せるはずもなく、突然行為をしなくなった俺に浮気だと勝手に勘違いしたシズちゃんに膨らみ始めたお腹を見られてしまった。腹部の異様なふくらみを見て、シズちゃんはただ俺のことを抱きしめた。ただ一言ありがとうと言われた時、俺は安心して泣いてしまった。 「もうすぐ生まれるんだよな」 「そうだよ。痛いのやだなぁ」 「俺に殴られる方が痛いだろ?」 「シズちゃんに殴られたら死んじゃうよ」 「まぁもう殴る気ねぇけどな……どんなだろうな」 シズちゃんはだらしないくらいの笑みを浮かべながら育児雑誌を開く。床にはベビー服やおもちゃが置かれていた。それは人からもらったものもあるが、ほとんどはシズちゃんが仕事帰りに買って来たものだ。 お腹が大きくなるにつれて、動くのも辛くなってきた。女性というものは凄い生き物だ。最初の頃は悪阻の苦しさに死ぬ思いをした。それでもシズちゃんが甲斐甲斐しく身の回りの世話をしてくれたから、少し嬉しくも感じていた。 結局、どういうことになるか分からないからと俺は手術を受けることになった。赤ちゃんがちゃんと元気なのかすごく不安だった。目が覚めたとき、赤ちゃんの泣き声がして涙が出た。俺の隣には小さなベッドが並んでいて、そこにはふにゃふにゃな男の子が俺のことをジッと見ていた。 仕事場である事務所に置かれた不似合いなベビーベッド。その中で泣いている赤ちゃんは、成長すればするほどシズちゃんに似てきたような気がする。 「あーあー!」 「はいはい、お腹空いたのかな?」 パソコンを打つ手を止めて、ベッドに近寄る。俺の顔を見るとすぐにふにゃりと笑顔を浮かべ、抱っこしてほしいと手を伸ばしてきた。最初よりも慣れた手つきで抱き上げ、口元に指を近づけると勢いよく吸い付いてきた。やはりお腹が空いているらしい。ソファに座り、傍にあったクッションを赤ちゃんの下に置く。そうして服を捲れば、赤ちゃんは早くと急かすようにしがみ付いてくる。 この子を産んでから何もないぺったんこな胸から白い液体のようなものが出るようになった。飲めるものなのか一応検査してもらうと、それは紛れもない母乳だった。それから収まる気配のないそれは、今ではパッドをしていないと服が濡れるほどだ。少し赤く腫れ上がった乳首に赤ちゃんは吸い付くと、ごくごくと飲み始めていた。最初は人工乳にするつもりだったが、この調子だと大丈夫かもしれない。少し伸びたような気のする髪を撫でていると、仕事に行っていたシズちゃんが帰ってきた。 「ただいま!静也は!?」 「おかえりー……って、またおもちゃ買って来たの?」 「いいだろ別に」 毎日のように片手におもちゃ屋の紙袋を持って帰ってくるシズちゃんのせいで、寝室は完全におもちゃだらけになっていた。気持ちは分からなくはないが、シズちゃんはすでに三輪車まで買ってきていた。シズちゃんは俺の隣に座ると、デレデレとした笑顔を浮かべながら静也の頬を突いた。静也という名前は、二人から一文字ずつ取った。もちろんシズちゃんが名付けた。女の子ならどうするつもりだったのだろうか。 「おー、ママのおっぱいうまいか静也。パパが毎日大きくしてやったから飲みやすいだろ?」 「それ以上変なこと言ったら刺すよ」 隣で余計なことばかり言うシズちゃんを叩くが、痛いのは俺の手のひらの方だった。静也は満足したのかシズちゃんの方ばかり視線が行っている。服を整えて静也にげっぷをさせる。機嫌のよくなった静也はキャッキャと笑い声を上げながら、シズちゃんが手に持っていたぬいぐるみに興味津々だった。 「抱っこ、してあげてよ」 「いや……俺は」 「そんなこと言って一回も抱いてないじゃんか。俺のことは抱くくせに」 「手前も大概だぞ……」 シズちゃんが静也を抱こうとしないのは、怖いからだと知っていた。でも今では力加減が昔よりもできることは知っていたし、何よりシズちゃん本人が抱きたいと思っているのを知っていた。躊躇するシズちゃんに静也を抱っこさせる。すでに首が座っているし、座った状態での抱っこだから落とす危険もない。当の本人はあわあわしながら必死に抱えていた。それでもお腹がいっぱいになって少し眠たいらしい静也は、大人しくシズちゃんの腕の中に納まっている。 「か……可愛いな」 「そうだね」 「目元は臨也似だな」 「そうかな?口元はシズちゃんに似てる」 静也の髪を撫でたり頬を触っていたシズちゃんは、何を思ったのか急に俺にキスをした。そういえば静也ができてからセックスはもちろんキスすらしていない。元から馬鹿みたいに毎日していたわけじゃないけれど、それなりに性欲のあるシズちゃんも流石に我慢しているのだろうか。誘われてもガラガラ投げつけて拒否するつもりでいるけれど。 「ん……何、急に」 「いや、何となく」 「……ふーん」 そういうシズちゃんの顔は真っ赤で、相変わらず童貞臭いなと思った。仕返しとばかりにシズちゃんにキスしてから、静也の額にもキスをする。ちなみに静也には暇さえあればキスしていた。第一キスをする回数が少ないのはシズちゃんが照れるからであって、俺や静也のせいじゃない。 「明日から一日に最低3回以上キスしよっか」 「さ、3回は多いだろ……」 「じゃあ俺これから静也にだけちゅーする。ねぇ静也ぁー、おっきくなったらお母さんと結婚しようね」 「はぁ!?」 「静也はきっとかっこよくなるだろうなぁ。だってシズちゃんの子どもなんだもん」 「……っ!」 わざとらしく言うと、シズちゃんはそれ以上何も言わなくなった。でもこのまま静也がシズちゃんに似てしまったら、俺は彼女を作ることすら許さないかもしれない。お互いの薬指に嵌められたお揃いの指輪。それにキスをすると、今度こそ静也を抱えたまま寝室に逃げて行ってしまった。 リクエストより「男の子のまま妊娠する臨也」でした!子どもの名前は私の趣味です。きっとお母さんっこになってお父さんには対抗心燃やすんだろうなとニヤニヤしている。 タイトルは昔こんな番組があった気がするので。 |