小説 | ナノ
君にベタ惚れ


タイトルにセンスがないのはいつものこと。




一体何回練習しただろうか。テレビで有名なお店のホットケーキの特集を見て、愛しくて愛しくて震える勢いの日々也がホットケーキを食べたいと言い出した。日々也は外に行くのが嫌いだ。出るのが嫌なんじゃなくて、人ごみに混ざるのが嫌らしい。それなら俺が蹴散らして道を開けてやると言ったのに、微妙な顔をされて終わった。それでもホットケーキが食べたいという願望はなくならなかったらしい。普通のケーキなら買ってきてやることはできすが、ホットケーキは焼きたてが一番だ。どうにかその願いを叶えてやりたくて、料理なんて一切したことがないのにホットケーキの素を買って来た。
作り方を読んでこれくらいすぐできると思ったが、料理とは奥深い。卵を割るところから行き詰ってしまった。その後も牛乳がうまく測れなかったり、粉が何故か混ざらなかったり。フライパンを焦がしたりして、出来上がったものは日々也に見せれるものじゃなかった。だから日々也にばれないように、こっそりと練習した。だんだん卵もうまく割れるようになって、台所を貸してくれた静雄のおかげもあって何とか食べれるものは作れるようになった。そうして日々也がホットケーキを食べたいと言ってから約一カ月後。3時のおやつにホットケーキを作ることに成功した。まだ熱いそれにアイスを乗せて、ハチミツをたっぷりかける。少し溶けたところで自室にいる日々也をリビングに呼んだ。

「……何だ、この甘ったるい匂いは」
「えへへー、今日のおやつは俺の手作りなんだぞ!」
「……お前の?」

先にテーブルに日々也を座らせて、服が汚れないようにナプキンをかけてやる。そうして作っておいたホットケーキを目の前に置くと、日々也は目をパチパチとさせた。

「……ホットケーキ」
「そう!前に日々也、食べたいって言ってただろ?だから俺練習して作ったんだ」
「……デリックが作ったのか」
「おう!」

日々也は珍しいものを見るような目で俺とホットケーキを眺めると、ゆっくりとナイフとフォークを手に取った。そして慣れた手つきで切り分けると、溶けたアイスを絡めて口に含む。その様子を真正面で凝視していたせいか、日々也は少し嫌そうな顔をした。

「あんまり見るな。馬鹿」

口ではそう言っているが、いつもより覇気がない。怒っているわけではないらしい。日々也はそのまま二口目を口に入れていた。

「どうだ、うまいか?」
「別に、普通……それよりも何故ホットケーキなんだ」
「何でって……日々也のために決まってんだろ」

別に変なことを言ったつもりもなければ、笑わせるつもりもなかった。それなのに日々也は顔を真っ赤にしてフォークでホットケーキをグサグサと刺し始めてしまった。綺麗に焼けていたそれは見事に形が崩れていく。

「あぁーっ!せっかくきれいな丸になってたのによぉ……」

それでも日々也は刺すのをやめない。おいしくなかったのだろうかと落胆していると、津軽と散歩に行っていたサイケが帰ってきた。

「あれー?ひびやくん、またホットケーキたべてる」
「……また?」

どたどたと足音を立てて俺の周りを動き回るサイケは自分の分はどこだと騒いでいた。それを宥めながら日々也を見ると、今度は口をパクパクさせながら椅子から立ち上がっていた。

「うん。だってつがるがよく作ってくれるから、ひびやくんもたべてたもん」
「黙れサイケ!」
「……日々也」
「う、うるさい!そんな目で見るな!」
「日々也、もしかして俺に気を遣って……」
「か……勘違いするな!私はただ、本当にホットケーキが食べたかっただけで……」
「えー!ホットケーキあきたってひびやくんいったもん!」
「サイケは余計なこと言うな!」

日々也は真っ赤な顔をしながらサイケのフードを頭に無理矢理被せていた。ぎゃあぎゃあと騒いでいる日々也を後ろから抱き締める。意外にも抵抗されなかった。いつもなら蹴り飛ばしたり殴ったりしてくるのに。久しぶりに触れた日々也の抱き心地は最高だった。

「日々也ぁ、ありがとうな」
「捨てるのがもったいなかっただけで、別にお前のためなんかじゃ……」
「やっぱり俺、日々也のこと好きだ、大好き」
「う……」

好きだ好きだと耳元で囁くと、さすがに気持ち悪いと叩かれてしまった。それでもめげずに叩いた手を取って正面から抱き締めると、背伸びをして頬にキスしてくれた。まだ口にしたことがないが、日々也がたまにデレてくれるなら今のままでもいいかもしれない。

「……次は、マフィンが食べたい」
「仰せのままに、お姫さま」
「……王子だ、ばか」

君のためなら何でもするよ。















リクエストより、『甘々、日々也にベタ惚れなデリック』でした。デリックは日々也に殴られても笑ってそうだ。

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