来神シズイザ。 コンビニの一角に並んだそれは、一見すると何の変哲もない小さな箱だ。下手をすれば何も知らない純真無垢な子どもは、興味本位で買ってしまうかもしれない。薄さ0.3ミリ。大人が見ればいったい何のことなのか嫌でもわかってしまう数字。そしてそれを眺めているのは何も知らない小学生ではなく、用途をしっかりと心得た高校生だった。 授業中にも見せないような真剣なまなざしでそれらを見比べているシズちゃんは、話しかける隙すら与えない。現在店内には俺とシズちゃん以外に大学生くらいの女性店員。雑誌を立ち読みしている会社帰りの男。少ないように感じるが、俺には店内を見まわしている監視カメラすら恐ろしい。男二人で買い物に来て、ゴムだけ買って行くだなんてあからさまずぎる。シズちゃんがその一角で悩んでいる間、俺は無意味にお菓子をカゴに放り込んでいった。それはゴムを買う恥ずかしさもあったが、これからのことを考えての恥ずかしさもあった。 今日の昼休み。いつものように屋上で他愛のない話をしていると、シズちゃんが唐突に「今日親いないんだよな」と言った。ただそれだけ。それでも仮にも付き合っている俺とシズちゃんにはそれがどういう意味かすぐに分かった。数回キスはした。だがそれ以上はまだだった。心のどこかで、やはり男のシズちゃんが同じ男の俺を抱こうとするわけがないと高をくくっていた。それだけに驚いた。そういうことには奥手に見えるシズちゃんがまさか自分から行動を起こすだなんて。その後に続いた「泊りに来いよ」という言葉に俺は頷くしかなかった。午後の授業は、全く集中できなかった。 「なぁ」 「……何」 視線はその小さな箱に向けたまま。シズちゃんは俺を呼んだ。声はできるだけ小さめに。店内のBGMにかき消されるよう祈りながら。 「薄いのと、匂いがするやつどっちがいい?」 「……は?」 「イチゴの香りとオレンジの香りだとよ」 「……」 一体何で悩んでいるのかと思えば、とてもくだらないことだった。しかしシズちゃんにとっては重要らしい。匂いなんて突っ込むのに大して関係ないだろうに。俺はさっさと家に帰ってしまいたかった。 「匂いなんていらない。こっち」 「あ」 少し不服そうなシズちゃんを無視してレジに並ぶ。白いレジ袋とは別に分けられた茶色い紙袋に入れられたそれ。店員は恥ずかしそうにお釣りを返してくれた。このコンビニは、二度と来れない。 シズちゃんの家に帰ってからは、特に何もなかった。シズちゃんが作ってくれたオムライスを二人でテレビを見ながら食べて、世間話をして。それから、シズちゃんにお風呂を勧められて。着替えの入った鞄を抱えて脱衣所に行く。鞄の一番底にはこの間通販で購入した少し高めのローション。だって男同士なんだ。女と違って、そういう風にはできていない。お風呂に入ってから何度も身体を入念に洗った。鏡に映った自分の身体を見て、今さらながら不安を感じる。 こんな痩せた面白みのない身体を見て、シズちゃんはそういう気分になるのだろうか。もしかすると俺を抱きながら頭では普段抜くのに使ってる雑誌の女を想像するのかも。そんなことばかり考えていると、逆上せたんじゃないかと心配したシズちゃんが様子を見に来てしまった。慌てて風呂から上がり、入れ替わりにシズちゃんが入る。シズちゃんが出たら、二階に上がるんだろう。どうやって誘えばいい。こういうとき何て言えば。男はもちろん異性とも関係を持ったことがないせいもあって、頭の中はぐるぐるだった。そうこうしているうちにシズちゃんがお風呂から出てきた。頭をタオルで拭きながら、二階に行こうと促してきた。テレビを消して、後に続く。ベッドに腰掛けると、シズちゃんも横に座った。いつも通り何もないシズちゃんの部屋。何か話題はないか。普段回転の良い頭は麻痺したように何も思いつかない。シズちゃんの匂いが濃くなったと感じたときには、俺の視界には天井が映っていた。 「シズちゃ……」 押し倒されたと気付くのにだいぶ時間がかかった。シズちゃんはベッドに乗り上げると、俺の首筋に顔をうずめてきた。触れる息が熱くて、変な声が出そうになる。思わず口を押さえようとすると、すぐさま腕を掴まれる。触れた手まで熱くて、火傷してしまいそうだった。 「ちょ、ちょっと待……っ」 せめて部屋の電気を消して。そう言いたかった口はシズちゃんにキスされたせいで、ほとんど言葉を発することなく終わった。唇を這う舌も口内を動き回るのも気持ちよくて、必死に息継ぎをする。俺とは違って持久力の高いシズちゃんは結構な時間息を止めていられる。そのせいもあるのかシズちゃんのキスは長い。酸欠にならないよう気を付けないといけない。十分に満足したらしいシズちゃんは、頬にこぼれてしまった唾液を舌で舐めとってきた。その動作さえも恥ずかしくて、何も言えない。 「わりぃ……ちょっと我慢できなかった」 「……いいよ、別に」 言葉では素っ気なく返したが、心臓はバクバクだ。我慢できないほど溜まっているのか、それとも俺に欲情しているのか。俺の呼吸が落ち着いたのを見計らって、シズちゃんはシャツを掴んできた。 「服、脱がせていいか?」 「いい、けど……電気消してよ」 「消したら、臨也が見えなくなるだろ」 「う……」 その言葉の通り、服を全部脱がせるとシズちゃんは頭の先から足先までじっくりと見つめてきた。恥ずかしくて背中を向けると、隠すなと怒られてしまった。 「俺だけ裸なんてずるいよ……シズちゃんも脱いで」 「……おう」 枕を必死に掴んで手の震え隠した。標識を投げられても、机や椅子を投げられても全く震えたことなんかなかったのに。そうこうしているうちに全部脱ぎ終わったシズちゃんが覆いかぶさってきた。そのまま抱き締められる。素肌で触れ合うのはとても心地よかった。あったかくて、普段標識を振り回している腕が優しく抱きしめてくれる。いつの間にか手の震えも止まっていた。 「あ、あのねシズちゃん……」 「ん?」 すぐ近くにいるシズちゃんは俺の髪を梳きながら、額にキスしてくる。 「ローション、とか……その」 「あぁ、買ってあるぞ」 「へ?」 シズちゃんは素早く起き上がるとベッドの下を探った。取り出したのは俺が買ったのと全く同じローションのボトル。そのパッケージを開けながら、シズちゃんは俺の隣に寝転んだ。 「それ、ちょっと高かったでしょ」 「まぁ……って、値段知ってるのかよ?」 「だって、同じの買ったし……」 「準備いいんだな」 「準備いいって言うよりは、俺は女の子と違って濡れないし……それないと、シズちゃん気持ちよくなれないでしょ?」 「……あのな、俺は自分のためじゃなくて、手前のためだからな」 「え?」 「普通は使わないようなとこに突っ込むんだろ。だったら少しでも痛くないようにしねぇと、手前が辛いじゃねぇか」 「……」 今まで俺に自販機や道路標識を投げつけてきたやつと同一人物とは思えない発言だった。俺がしみじみ感動していると、再度上に覆いかぶさってくる。視線を少し下にずらせば勃起したシズちゃんの性器が見え、慌てて別の方向を見た。 「その……俺上手くないからな」 「心配しなくても、俺も初めてだから上手い下手なんてわかんないよ」 「……そうか」 シズちゃんは安堵したように笑うと胸元をゆっくりと撫でてきた。最初は触れていただけだったが、二つある乳首を指で摘まむように刺激してきた。 「ん……っ」 「痛いか?」 「ちが……なんか、変な感じ……」 そんなところ触られたこともなければ、自分で触ったこともない。それでもシズちゃんに触られているせいか、むずむずとしたよく分からない感覚がする。それがだんだんと強くなってきて、同時にシズちゃんが乳首を摘まむ力も強くなってきた。 「シズちゃん、それ……やだ、ひうぅ」 それやめて。そう言おうとしたのにシズちゃんは赤くなり始めた乳首をぱくりと口に含んでしまった。ねっとりと舌で舐められたと思ったら、すぐにじゅっと吸われてしまう。 「真っ赤だな。可愛い」 「い、言わないで、よぉ……」 太ももに感じた生暖かい感触。視線を再度下に向けると、勃起したシズちゃんの性器が目に入った。それもさっきよりも大きく太くなっているような気がする。先走りをとろとろと流すそれは、シズちゃんが動くたびに俺の肌に触れた。 「……良かった」 「あ?……何が」 「ううん……何でもない、よ」 太ももを掴まれて、そのまま足を開かされる。体育の授業でもしないような体勢。部屋の電気をつけているせいで、嫌でも全部見えている。もう指摘するのも面倒だけど、シズちゃんは変なとこを凝視しすぎだ。 ボトルからローションを出すと、シズちゃんは温めるためか手のひらで混ぜ始めた。とろりととろみのついたそれが指に絡められて、誰にも触れられたことのないそこに触れた。 「じゃあ、指入れるぞ……」 「うん……」 つぷり。シズちゃんが少し力を入れると、爪先が沈んだ。ぞくりと感じたことのない感覚が背中に走る。のけぞりそうになるのを必死に我慢して、枕を掴んだ。 「……痛いか?」 「痛くはない、けど……ちょっと変な感じ……」 そう言いながら指は入ったままだ。本番で痛がって中断されるのが嫌だから自分で練習しようと思っていたけど、やっぱり勇気がなかった。思ったほど痛くなくて良かった。 「痛くないようにローションいっぱい使ってやるからな」 「うん……」 いつもは標識引っこ抜いたり、人を殴り飛ばしてばかりの手が優しく頭を撫でてくる。声に出して笑いそうになったけど、ちょっと焦ったシズちゃんの顔は悪くなかった。 「あ、うぅ……」 指はどんどん増やされていって、ぐちゅぐちゅと音が鳴るくらいになった。ネットで男同士の性行為について調べたけど、本当にそんなところが使えるなんて思っていなかった。しっかり解れたのを確認すると、シズちゃんはそわそわしながらさっき買ったゴムを取り出してきた。 「ゴム、俺が着けてあげる」 「別に自分で……」 「シズちゃんの馬鹿力じゃ、破っちゃうよ?」 「……」 ピリリ、と袋を破いて中身を出す。シズちゃんのそれに被せて、四苦八苦しながら着けてあげた。 「……はい、できた」 びくびくと脈打つそれは、今にも射精してしまいそうだ。我慢できないと目で訴えてくるシズちゃんに軽く押し倒されて、さっきと同じように足を開いた。ローションですでにどろどろになったそこに、性器が添えられる。 「入れる、からな」 「うん……あ……っ!」 ずっずっと押し入るようにシズちゃんは腰を進めた。指とは比べ物にならないくらい太いそれは、ローションの滑りを借りてもやっぱり痛い。俺が痛がってることに気付いたらしいシズちゃんは腰を動かすのをやめてしまった。それどころかせっかく少し入ったそれを抜こうとしている。 「抜かない、で」 「でも、痛いんだろ?なら別に今度でも……」 「やだ!ここまで入ったんだから、大丈夫だってば」 「うわっ」 腰を引こうとするシズちゃんに足を絡めて抜かせないようにした。ゆっくり息を吐いて、身体の力を抜いていく。ずぷりと音を立てながら、シズちゃんの性器は中にはいってきた。 「ほら……入った、よ?」 ぴったりとくっついているそこを撫でると、シズちゃんが息をつめたのが分かった。まだ少し痛むけど、我慢できないほどじゃない。これならシズちゃんと喧嘩した時の方がもっと痛いと思う。 「ふ、う……」 シズちゃんの肩に手を置いて目を閉じてゆっくりと腰を揺らす。どうすればシズちゃんが気持ちよくなってくれるのか。もしこれで射精できなかったら口でしてあげよう。そんなことを考えていると、いきなりシズちゃんに口を押さえられた 「うぐっ……っ!?」 「しっ!」 シズちゃんはドアの方を見ながらそわそわとしていた。しばらくすると階段を上がってくる足音が聞こえてくる。誰か帰ってきたんだと背中に変な汗をかき始めた。しばらくすると、その足音はシズちゃんの部屋の前で止まった。 「……帰ってたんだ」 「と、友達泊りに来てんだよ」 「……そうなんだ」 声からするに、弟の幽くんだと思う。シズちゃんの部屋は馬鹿正直に鍵すらついていない。もしオナってるときに家族入ってきたらどうするつもりなんだろうか。それよりも今開けられたら、シズちゃんはどうするつもりなんだろうか。 「今日は遅くなるんじゃなかったのか?」 「……その予定だったんだけど、明日になったんだ……」 「そ、そうか」 「お友達もごゆっくり……」 幽くんはどうやら自室に入ったらしい。ドアの閉まる音とともに胸を撫で下ろす。足元の方にいっていた布団を必死に引き寄せて、上半身だけ隠した。シズちゃんに手招きして顔を近づけてもらう。ちょっと奥まで入って悲鳴をあげてしまった。シズちゃんは顔を真っ赤にしていた。 「お、弟くん帰ってきちゃったね」 「まぁ、疲れてるんだろうから邪魔しねぇようにしないとな」 「そだね……うあぁっ」 邪魔しないと言ったのだからてっきり中断するのかと思ったが、シズちゃんは気にすることなく腰を動かし始めた。慌てて両手で口を押さえる。信じられないと目で訴えると耳元でお前が可愛いからと、訳の分からないことを言われた。 「ふ、うっんぐ、うぅ……」 ベッドがぎしぎしと揺れる音も隣に聞こえているんじゃないかと不安になった。でもシズちゃんにそんなことを気にしている様子はない。さっきまであった余裕が一気になくなったみたいに、俺の名前を何度も呼びながら一心不乱に腰を動かした。 しばらくするとシズちゃんは俺を痛いほど抱きしめて動かなくなった。どうしたのだろうかと思っていると、中が少し温かくなったような気がした。 「……」 「もしかして、イッちゃったの?」 「言うな!」 シズちゃんは顔を真っ赤にしながら性器を抜いた。さっき着けたばかりのゴムの先端には白くドロついた精液が溜まっていた。俺は突っ込んだだけじゃまだ射精しそうにもなくて、トイレでどうにかしようと思っていた。身体を起こそうと手をつくと同時に、シズちゃんは俺の性器を手で掴んだ。先走りを溢れさせる先端を指で擦りながら、頬っぺたにキスしてくる。 「俺する、自分でする、からぁ……!」 「これくらい俺にさせろって」 「や、だぁ……!」 やめろと肩を叩いてもシズちゃんはやめてくれない。それどころか手の動きは早くなって、射精感はどんどん高まっていく。元から自分で抜くようなこともなくて、擦るだけでもこんなに気持ちいいのかとびっくりした。堪らなくてシズちゃんにしがみ付きながら、そのまま射精した。 「だめ、も……あ、うぅっ」 飛んだ精液は身体にかけてあった布団に少しかかってしまった。黒色のシーツに白いそれは映えて、堪らなく恥ずかしい。 「ごめ……布団、汚しちゃった……?」 「別に気にすんな。明日俺が洗っとくから」 「こ、こんなのが初めてなんてかっこ悪いよ」 「あー……俺は臨也が可愛かったからどうでもいい」 「う……」 居たたまれなくて布団の中に逃げようとしたけど、シズちゃんに抱き締められたせいでできなくなってしまった。それから味をしめたシズちゃんがマニアックなプレイにハマり始めるのは、また別の話。 最初は童貞でローションに変なこだわりをもつシズちゃんの話だったんですが、やりたいこと詰め込んだら酷いことに…… |