小説 | ナノ





とても、懐かしい気持ちで静雄は目を覚ました。数回瞬きをすると、見知った風景が目に入る。いくつか染みのできた天井と、カーテンの隙間から差し込む太陽。それでも一番見たいはずのものは見当たらない。思わず名前を呼ぶと、ひょっこりとそれは顔を覗かせた。

「なぁに、シズちゃん。俺がいなくてびっくしたの?」
「んなわけねぇだろ……って、その呼び方やめろって」
「えー、やだ」

夢の中よりもずいぶん砕けたしゃべりをする臨也。静雄の夢の中の臨也よりも2歳年上だ。2年という月日は二人にとってかけがえのないものだった。ずっと静雄さんと呼ぶ臨也に呼び捨てにしろと言うと、おかしなあだ名をつけられたり、いつも一緒に朝食と夕飯を食べたり。ベッドに腰掛けていた臨也は布団の中にもぐりこんだ。そのまま静雄の腕の中にすっぽりと収まり、胸元に顔をうずめていた。

「ふふ、今日は何時に帰ってくる?」
「あー……夕方には帰る」
「じゃあ今日はオムライス作って待ってるね」
「今日は成功するといいな」
「あ、味は普通だから文句言わない!」

かぶっと臨也が首筋にかみつくと、静雄はくすぐったそうに身を捩った。静雄は今この家を見つけてくれた先輩の紹介で仕事をしていた。大変ではあるが、家に帰ると臨也が出迎えてくれる。そう考えるだけで自然と笑みがこぼれた。おまけに臨也は律儀に静雄の買ってきたエプロンを着用していつも待っている。
それを思い出しにやけ顔になっていることに気付いた臨也が頬を寄せてきた。

「シズちゃん変な顔。どうかした?まだ寝てるの」
「起きたっての……昔の夢、見たんだ」

ここに来てから昔の話はお互いにしなかった。家を出たあの日から、それ以前のことは捨てる。言葉にはしなかったが静雄はそう思っていた。だが臨也は困ったように笑って、そして静雄の頬に手を添えた。

「なぁ……臨也、」
「幸せだよ」
「え?」
「俺は今凄く幸せ。朝起きたら隣にシズちゃんがいて、夜目を閉じるときもシズちゃんが傍にいてくれる。だからね、大丈夫だよ?シズちゃんは間違ってなんかない」

そういって臨也は静雄を抱きしめた。怖い夢を見て泣いた幼い自分に母がしてくれた時と同じように。静雄は少なからず罪悪感を抱いていた。臨也は後悔しているのではないか、自分は間違っていたのかもしれないと。だがそんな不安も臨也はとっくに気付いていた。だからこそ臨也はできる限りの愛情表現を静雄にした。

「シズちゃんの泣き虫」
「お前だって半泣きだろ」
「う、うるさい……もう、早く仕事の準備しなよ」
「おぉ……あと、もうちょっとしたらな」
「……そっか」

家を出たら臨也を幸せにしよう。そう誓っていたのに実際は自分が幸せにしてもらっているのだと、今さらながら気づいて静雄は笑ってしまった。これが正しい選択だったのかは分からない。それでも自分は臨也がいつも笑っていられるようにするだけだと、抱き締める腕に力を込めながら思った。

















あとがき
この形式での書き方をしてみたいと思っていたのですが、分かりにくかったのではないでしょうか?そればかりが心配です。いえ、内容的にも心配ですが(笑)
義理兄弟ものを書こう!と思い、同時に臨也さんを可哀想な感じにしようと思った結果がこれでした。居場所のなかった臨也に居場所を作ってあげる静雄。幸せにするはずが逆に幸せにしてもらったり。原作でもそんな感じで妄想したら楽しいです。
ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました!
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