小説 | ナノ
怖いのはんぶんこ




テレビの前にあるソファに座って、俺はサイケが以前から楽しみにしていた動物特集を一緒に見ていた。画面に映る子犬や子猫の姿に目を輝かせている。この子は特に猫がお気に入りらしい。この前臨也さんが猫のぬいぐるみを与えると、毎日一緒に寝ているくらいだ。ぬいぐるみを抱き締めて眠る姿は可愛い以外の言葉が出てこない。
今日はお風呂に桃の香りがする入浴剤を入れてみた。これも臨也さんから貰ったものだ。あの人は何だかんだ言いつつ俺たち、というかサイケに甘い。入浴剤を入れると湯がピンク色になったのには驚いた。まだ濡れているサイケの髪を丁寧に拭いてドライヤーで乾かす。今日はいつものシャンプーの匂いに混じって、桃の甘い匂いがした。思わず乾かしたばかりの髪に顔を埋める。

「つがる、くすぐったいよぉ」

言葉のわりに振り払われることはない。それどころかすりすりと頭を肩の辺りに擦り付けてくるくらいだ。その仕草が堪らなく可愛くて、何とも表現し難い気持ちになる。サイケは嬉しそうに笑いながら、テレビに映った子猫を指差した。

「にゃんこかわいいねっ」
「サイケの方が可愛い」
「もう、つがるそればっかり!でもつがるにいわれたら、うれしい」

少し照れたように呟くサイケが愛しくて思わず抱き締める。すぐに抱き締め返してくれたサイケの額に口付けようとすると、外から低い地響きのような音がした。

「……なに、いまの?」

サイケはじっと音のした方を見ていた。耳を澄ましていると、雨の音が一気に強くなっていくのが分かった。

「あぁ、雷か」
「かみなり?」

カーテンを開けて窓の外を見ると、案の定凄い勢いで雨が降っていた。遠くの方で音がしたかと思うと、空が一瞬明るくなった。「っ」
「今日雨だなんて言ってたか?」

昼間に降らなくて良かった。今日は買い出しや掃除をするつもりでいたから。雨になるとサイケが一所懸命てるてる坊主を作る姿は見れるけども、やはり雨というのは気分が滅入ってしまう。外の様子を見に来ていた俺に付いてきたサイケは、あまり窓に近寄ろうとはしなかった。

「……サイケ?」

そういえば雷を見たのは初めてだっただろうか。音が鳴る度に背中をビクリと震わせては、俺の着流しを皺になるくらい掴んでいた。

「あ、あのねつがる」
「ん?」
「か……かみなりこわい?」
「いや……」
「こわいよね?きょうはいっしょにねてあげようか?」

やけに早口でしゃべりながら、早く寝ようと急かして引っ張ってくる。最初から雷が怖いから一緒に寝てほしいと言えばいいのに、変な言い回しをするところがまた可愛いというか。

「……そうだな、怖いから一緒に寝てくれるか?」
「ほんとに!?あ……こ、こわくないように、てもつないであげる!」

俺がサイケに合わせるように答えると、すぐにテレビを消して俺の部屋へ行くよう促してきた。




「おてて、はなしちゃだめだからね?」
「あぁ、分かってる」

あれからずっと握っていた手に力を込めると、サイケは嬉しそうに握り返してきた。相変わらず小さく聞こえる雷にはビクビクしているが。

「そういえば、猫のぬいぐるみは一緒に寝ないのか?」
「にゃーさん?つがるがいるから、にゃーさんはおるすばん!」

いつの間にかぬいぐるみに名前をつけていたらしい。サイケさっきにゃーさんにおやすみ言ってきたよ、と嬉しそうに教えてくれた。

「つがるとねるの、ひさしぶりだね」
「そうだな……」

サイケとは元から別々に寝ていたが、たまに怖い夢を見ると俺の部屋に来ていた。朝起きて布団の中で丸くなっているサイケを見つける度に微笑ましい気持ちになったが、掛け布団を全て取るのはやめて欲しかった。一人用の敷布団に二人も寝るのは少し狭い。サイケが布団から落ちないよう掛け布団をかけると、ぎゅっと抱き着いてきた。

「つがる、あったかいね」
「ん……サイケも温い」
「……あのね、つがる」
「ん?」
「もう、かみなりこわくない?」
「あぁ。サイケが一緒だから平気になったよ」
「つがるのこわいの、おれとはんぶんこしたからだね!」
「……そうだな」

サイケはすりすりと胸元に顔を埋めてくる。前髪をかき上げて口付けると、照れたように笑った。

「怖いのだけじゃなくて、嬉しいのも楽しいのも半分こしような?」
「……うんっ!」











アンケートより「ほのぼの、じじまご みたいな関係(目に入れても痛くない)ツガサイ」を意識してみた。
二人が一緒に寝てないのは、臨也が自分は静雄と毎晩寝れないことに嫉妬して寝させないから。
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