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愛してるから愛してね





真っ暗な家の中で響くのは場違いなほど大きいドアをたたく音。必死に鍵を閉めてチェーンをかけた。それでも外にいる人物は引き下がる気配がない。運よく俺は家の戸締りはしっかりしていた。だから常識的に考えたらここ以外からは入ってこれない。この人に常識という言葉が通じたらの話だけど。

「どうして?どうして開けてくれないの月島?今日も一人なんでしょ?寂しいよね寂しくないわけないよね?だから僕が一緒にいてあげる。ご飯作ってあげるよ月島。だから開けて」

外から聞こえるのは六臂さんの声。近所迷惑だからやめてくれと頼んでもじゃあ開けてよとしか返ってこない。このままだと窓ガラスを割られてしまうんじゃないかと思うほどの勢いだった。六臂さんはいつも俺のスケジュールを把握していた。気まぐれに買い物をしても、朝のごみ出しをしても、必ず遭遇した。怖くて立ちすくむ俺をよそに、彼は奇遇だね運命だねと頬を赤くするばかりだった。

「六臂さん、お願いだから帰って下さい……!」
「やだ。だって月島と一緒に寝たいもん。一緒にご飯食べて一緒にお風呂入ろう?」
「六臂さん……っ!」

盲目ってこういうことを言うんだろうか。ガンッ!と今度はドアを蹴られた。怖くて床に座り込む。六臂さんはこんな人じゃなかった。男だったけど同性にも人気があって勉強も運動もできて。俺なんかとは全く接点がなかったのに、そんな俺を六臂さんは好きだと言った。ずっと俺のことを見ていたと。その結果がこれだ。教えてもいないのにメールが大量に届いて、家の電話は常に留守電にしないと鳴り止まなくなった。毎日誰かの視線を感じるようになり、気付けばその視線の正体は姿を隠しもせず近寄るようになっていた。
「……」

急に静かになったことに安堵と不安が募る。帰ったのだろうか。それともまさか、他のところから入ろうと移動したのだろうか。外の様子を伺おうとドアに近寄った時だった。

「……ふふ」
「うわぁ!」

急に郵便受けが開いて、そこから赤い目が二つ覗いていた。その目は俺に焦点を合わせるとにっこりと細められる。俺のことをぎょろりと見つめては、恍惚とした表情を浮かべた。

「もう、月島がいじわるするから今日はもう帰るよ。次はちゃんと開けてよね。そうじゃないと別の入り口作るから」
「……」
「おやすみ月島。愛してるから愛してね」

そう言って六臂さんは帰って行った。六臂さんは俺が愛すまでこの行為を続けるとこの前断言していた。でもきっと愛したところで終わらない。俺と六臂さんの関係は、まだ始まったばかりだった。









未来日記パロです。六臂が由乃で、ユッキーが月島。

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