白いスーツと白いコート。それに合わせるように白とピンクを基調としたシャツやヘッドホン。それを眺めながら、私は本日何度目か分からない溜め息をついた。 サイケとデリックは一応兄弟という枠組みに当てはまる。反応や知能も幼いサイケが兄という点は驚きだが、本人たちが兄弟だと言い張るのだからたぶんそうなのだろう。二人は比較的仲がいいと思う。一般的な兄弟の仲など私が知るよしもないが、喧嘩をすることは滅多になく笑顔で会話を交わしている。 それが最近、私にとって悩みの種となっていた。デリックは私と初めて会ったとき、一目惚れだと騒いで告白してきた。もちろん即座に断った。当たり前だ。初対面で、しかも同性に告白されて嬉しいわけがない。だがデリックはそれから何度も何度も、好きだの愛しているだの囁いてきた。実はそれが、嫌ではなくなってきている。 もうひとつの悩みはサイケだ。あれはデリックと兄弟なだけであって、サイケには津軽がいる。それでもあの二人が並んでいるのを見ると、何とも言えない気持ちになった。まるでお揃いのように見える服装。それが羨ましくて仕方がなかった。私とデリックがお揃いの衣服を身に付けたところで、臨也辺りに馬鹿にされると目に見えている。それでもどうしようもなく、羨ましかったのだ。 そしてついに、あの白いコートをサイケに貸して貰った。外に行くのに自分の服装では目立ちすぎると言えば、何の疑いもなくクローゼットから替えを出してきてくれた。姿見の前に立つ自分は、まるで別人のようだ。目の色などは仕方がないが、やはり似た顔なだけはある。津軽は今の私を見てサイケと間違えるだろうか。いや、あの男はサイケに関して鋭いからそれはないだろう。 「たっだいまー日々也ぁ!」 「え、あ……お、おかえり」 鏡とにらめっこしていたら、いきなり部屋の扉が開けられた。大声とともにデリックが帰ってきた。恐らく驚かせるためにこっそり家に入って来たのだろう。さっきまで自慢気に今の格好を見せるつもりでいたのに、急に恥ずかしくなってきた。 「……」 「な、なんだ?」 デリックはさっきまでの明るさと一転して、まじまじと私を眺めていた。きっとこの服装について言いたいのだろう。似合っているだろうか。明日からこの服装で過ごした方がデリックは喜んでくれるかもしれない。だってお揃いなんだ。恋人同士はお揃いにすると愛が深まると雑誌にも書いてあった。だがデリックの反応は、想像していたものと違っていた。 「……日々也にはそれ、似合わねぇよ」 「……へ?」 予想外の言葉にとても間抜けな声をあげてしまった。ショックだった。デリックはただ感想を述べただけなんだろう。だが私には「デリックと同じになりたい」という気持ちすら否定されたような気がした。 「そ……それくらい分かってる。ただ着てみただけだ。別に似合わなくても……」 柄にもなく泣きそうになった。コートの裾を握り締めて必死に涙を流すのを耐える。そんな私に全く気付かないデリックは、満面の笑みでクローゼットの中を漁り始めた。 「それよりこっちの方が日々也には似合うと思うんだよな!」 紙袋の中から取り出されたのは丁寧に畳まれたシャツだった。肌触りの良さそうなそれの襟には、薄いピンク色のラインが入っている。 「……どうしたんだ、これ?」 「サイズとかはその……日々也が寝てるときに勝手に寸法した。……ごめん」 一見市販されているようにも見えるこれは、わざわざ注文したものらしい。襟のラインは自分のイメージカラーでもあるピンクとお揃いにするために、目立たないよう入れたらしい。 「い、嫌だったか?そうだよな、余計なことして悪かった。渡そうかどうかずっと悩んでて……」 私が何も言わなかったせいだろう。デリックはシャツを袋の中に直そうとした。慌ててその手を止めさせて、袋ごと奪い取る。 「ずっと……ずっと羨ましかった。デリックとサイケの服装が似ていることが。私だって、デリックと同じ服……」 そこまで言って慌てて自分の口を塞ぐ。これじゃまるで私がデリックのことが好きで、サイケに嫉妬しているようだった。こんな女々しいやつ、流石のデリックも嫌に違いない。 「あ、いや……今のは……その」 「か……」 「……か?」 「可愛すぎんだろ日々也ぁ!」 「うひゃあっ!?」 飛びかかるようにデリックが抱き着いてきて、思わず変な悲鳴をあげてしまった。 「それってサイケに妬いてるってことだよな?そんなことしなくても、俺は日々也しか好きじゃねぇよ!あ、でも嫉妬してくれる日々也はもっと好きだぞ!」 こいつが犬なら思いっきり尻尾を振っているだろう。デリックは本当に私が好きなんだな、と他人事のように思った。背中に手を添えて抱き締め返すと、嬉しそうな笑い声が聞こえた。どうやら私も、自分が思っているよりデリックが好きらしい。 アンケートより。 「デリックとサイケの衣装が同じことを羨ましく思う日々也」でした。 これはツンデレ……? |