小説 | ナノ
月が綺麗だったので


手探りな月島くんと六臂くん。



今夜は月がとても綺麗だった。特別満月というわけではないが、雲ひとつない空には月だけが浮かんでいた。そんな日に何もせずに過ごすなんて、誕生日を祝わないのと同じ。
だから深夜、サイケや日々也たちを起こさないように気を付けながら外に出た。ひんやりとした空気は気持ちがいい。よく考えると外に出たのは久しぶりだった。
昼間は明るくて出掛ける気になんてならない。人間がいっぱいいて、色んな声が聞こえるから気分が悪くなる。
いつも青や赤を映す信号は黄色く点滅していた。車も既にほとんど通らない横断歩道。白線だけを踏んで渡った。暗い夜道にある自販機の光は眩しいくらい。もっと月の光を楽しみたくて街灯の少ない広い公園に向かった。きっと昼間は子どもがいっぱいいるのだろう公園は、ただ静かだった。ブランコも、ジャングルジムも滑り台も。全部月の光に照らされて黒い影が伸びていた。夜なのに影があるだなんて不思議な光景だ。

「……綺麗な、金色」

ブランコに座りながら空を眺める。まるで静雄たちの髪の色みたい。僕の髪は臨也と同じ真っ黒。在り来たりかもしれないこの色を、僕は結構気に入っていた。

「……あ」

ふと人の気配を感じて振り返る。まさかこんな時間に誰かいるのだろうか。いっぱいいたらどうしよう。目を凝らして少し離れた場所にあるベンチを見た。そこには、月島がいた。お菓子を買いに行くと行ったきり、3日も帰っていない月島が。思わずブランコから降りて、小走りにベンチに向かってしまった。

「……あ、久しぶりですね」

月島は僕を見ると、当たり前のように答えた。足元には黒い猫が一匹。月島の足に擦りつきながら、甘えたような鳴き声をあげていた。

「……」

黒猫と目が合う。一声鳴くと、それは逃げるように走って行ってしまった。

「うぐぐ……」

月島は寂しそうに猫の後ろを見つめる。あの猫は僕が何を考えているのか分かったのかもしれない。月島には色々聞くべきことがあるのだろうけど、今はただ隣に腰かけた。だって今日は月が綺麗なんだ。

「あ、そうだ。六臂さんの好きなお菓子探したんですけど、何故かみんなお店が閉まってて……」
「……そう」
「だから今は……元から自分で持ってたチョコレートしかなくて……すみません」
「いいよ。僕チョコレート好きだし」

月島の手のひらに乗った包み紙を開いて、中身を口の中に放り込んだ。広がる独特の甘味は、喉の渇きも同時に感じさせた。普段の格好で特に気にせず外に出たが、少し肌寒いかもしれない。特に首元が冷たく感じた。

「……くしゅんっ」
「まだ夜は冷えますもんね。あ、そうだ」

月島は首に巻いていたマフラーを一度外すと、僕と自分の首に巻き直してきた。自然と近くなる距離。触れた肩。自分以外の匂いがすぐ近くにあるのは落ち着かない。思わず口の中で溶かしていたチョコレートを噛んでしまった。
「こうすれば寒くないですよ?手も繋ぎましょう。その方が温かいですし」
「……」

ぎゅっと握ってきた手は暖かくて、僕よりも大きかった。あまり誰かに触れることは得意じゃなかったけど、不思議と嫌な気分にはならなかった。緊張はしたけど。

「……帰ろう」
「え、でもおやつ……」
「また今度、買いに行けばいいから」

この時間は店が閉まってることに月島は気付いていないのだろうか。

「……そうですね。じゃあ今度一緒に行きましょう?今日は月が綺麗ですから、散歩して帰りましょうか」

一緒、という言葉が少し嬉しい。きっと一緒に迷子になるんだろう。嬉しそうに笑う月島につられて僕も笑った。繋いだ手は、いつまでも温かかった。



(やっぱり綺麗ですね)
(……満月のときの方が綺麗と思うけど)
(六臂さんのことですよ?)
(……)
(いたたっ!爪立てないで下さいっ)











悩んだ末に六臂くんの一人称を「僕」にしてみた。二人の性格は以前ブログで話したのが当サイトでは定着しそう。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -