小説 | ナノ





俺はこの世界に生まれてたから、ずっと物足りなさを感じていた。静雄に臨也がいるように、当たり前のように津軽にはサイケがいた。だが俺の隣には誰もいない。俺だけを見てくれるやつは存在しなかった。だから俺はずっと待っていた。俺の隣で、ずっと傍にいてくれるやつを。
そんなとき、現れたのが日々也だった。俺やサイケ、津軽とはまた違った感覚を持つ日々也に俺は夢中になった。冷たくあしらわれようと、こき使われようと構わなかった。我が侭を聞いてやると、決まって日々也は恥ずかしそうに礼を言うのだ。そのときの照れた顔が、俺は大好きだった。

日課のように毎晩、眠っている日々也の姿を眺めた。端から見れば怪しいだろう。それでも俺は、この愛しいという気持ちを抑えられなくなっていた。傍に居てくれるだけでいいという感情は、いつしかそれ以上を求めるようになっていた。

そんなときだ。日々也にそういった経験があるのか気になったのは。疑っているわけではなかったが、日々也の口からそんな話題は聞いたことがない。
俺が直接聞くと後々厄介だ。万が一そういう目で見ているとバレたら、もう傍にはいてくれなくなる。
だから俺はサイケに頼んだ。日々也に全く警戒されてないないサイケになら、本心を言うかもしれない。サイケはケーキ1つで動いた。仮にも弟として、悲しくなった。

仕事を終えて家に帰れば、すでに津軽たちは部屋に籠っていた。日々也も部屋で本でも読んでいるんだろう。
津軽とサイケの部屋に行けば、案の定二人の服は乱れていた。この二人が毎晩のようにセックスをしてることくらい気付いていた。このド変態野郎のことだ。無知なサイケに色々と入れ知恵したんだろう。
邪魔されたことに津軽はずいぶんと怒っていたが、サイケが膝の上に乗ると何も言わなくなった。

「で、どうだった?」
「んぅ……ひびやくん、えっちしたことあるって」
「……はぁ?」
「だって、ひびやくんがそういったの」

無意識に強くなった口調に、サイケは対抗するように頬を膨らませてきた。どういうことだ。日々也がまさかそんな。ショックを受けている俺を後目に、津軽の手がサイケの下半身を触り始めた。だからあまりこの部屋には来たくなかったんだ。

「や、つがる、まだデリックが……あぁっ!」
「ありがとなサイケ。後はごゆっくり」

さっさと二人の部屋を後にする。悔しかった。俺には日々也だけだったのに、日々也はそうじゃなかった。信じていたものが崩れたような気がした。悔しさはいつの間にか腹立たしさに代わって、やがてぶつけようのない怒りへと代わっていた。
それが間違いだと気付いたのは、何もかもが終わった後だった。ベッドの上には白濁まみれで気絶している日々也。未だに尻の穴から垂れるそれが生々しかった。

「お、俺……何して……」

後悔しても遅い。全部自分勝手な勘違いだった。俺が思っていることを、同じように日々也も思っているとは限らないのに。
慌てて手首に巻かれた自分のネクタイを外すと、擦れて赤くなっていた。綺麗な、日々也の肌に傷をつけてしまった。自分でしたくせにそれ以上日々也を見ていられなくて、俺はシーツを身体に被せた。そのままリビングに行ってソファへと座る。まだ夜明けよりも早い時間なだけあってか、外からは鳥の鳴き声すら聞こえてこなかった。余計に居たたまれなくなる。

「……そうだ」

とにかく日々也の身体を綺麗にしよう。そう思って風呂に湯を溜めた。そこまではいいが、どんな顔をして日々也と話せばいいのだろうか。謝って済む問題じゃないことくらい、分かっていた。
しばらくすると、ドアの開く音がした。こっそりと廊下を見ると、日々也が床を這うようにしてリビングの方に来た。俺がいることには気付いてないようで、必死に棚からグラスを取り出して水を飲んでいた。時折漏れる嗚咽に、俺は泣きたくなった。

「もう……やだ……」

聞こえてきた、拒絶の言葉。それは俺と日々也の関係が、もう元には戻せないことを物語っていた。ゆっくりと日々也に近付く。目の前に来るまで、俺がここにいることに気付いてなかったらしい。
下を向く日々也の肩は震えていた。フローリングには涙だろう水滴がいくつも落ちていく。抱き締めたかったが、俺にその権利も資格もない。だから、風呂場に日々也を運んだ。
きっと汚れた身体が気持ち悪いだろうから。必死に顔を隠して泣き続ける日々也を近くに感じて、まるで殴られたような衝撃を受けた。
ほとんど意味のない服を脱がせて浴室に座らせると、日々也と目があった。赤くなった瞳は、俺を責めているようだった。

「デリック……?」

首を傾げる日々也の頬を撫でる。涙の痕が痛々しくて、目を手のひらで覆った。そして最後にキスをした。下手をしたらもっと傷付けてしまったかもしれない。最後まで、俺は卑怯で自分勝手な男だ。そのまま振り返ることなく浴室から出て扉を閉めた。汚れた服を掴んで脱衣所から出ると、すぐに浴室からはシャワーの音が聞こえてきた。日々也の嗚咽が頭から離れない。そんな声を出させたかったはずじゃなかったのに。

「ごめん……ごめんな、日々也。俺、お前の隣にいる資格最初からなかった。だから俺だけ一人だったんだ」

やっと分かった。好きなやつのことを守るどころか傷付けてしまうから、俺はずっと一人だったんだ。そんなやつの傍に居てくれるやつなんているはずがなかった。
日々也の新しい着替えを持って脱衣所に置きに行こうとすると、リビングにはサイケが立っていた。いつから見られていたんだろうか。普段幼稚なくせに、こんな時に限って侮れない。

「……」
「……なぁ、サイケ。あのよぉ……」
「おっきなケーキくれても、いっぱいケーキくれても、そのおねがいはきいてあげない」
「……そうか」

俺が何を言おうとしたのか既に分かっていたらしいサイケは、怒ったような顔をしながら首を振った。着替えを渡すと今度は泣きそうな顔をした。相変わらず喜怒哀楽が激しいやつだ。

「ねぇ、デリック……」
「……津軽と喧嘩すんなよ。まぁ、しねぇと思うけど」
「じゃあ……ひびやくんは、だれとケンカしたらいいの……?」
「……あいつ、結構寂しがり屋だからさ。たまに一緒に寝てやってくれよ」
「デリックのおにいちゃんだからって、なんでもしてあげれるわけじゃないよ」
「……」

何も言えずに押し黙った俺を、サイケはただ見つめてきた。その視線から逃げるように家を飛び出した。



さようなら俺の女王さま。
これでまた、俺の隣には誰もいなくなった。



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