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嘘つきイザイザと壊れたシズちゃん3




あぁ、苦痛だ。そう思ってから何が苦痛なのか考えてみた。でも考えるのもめんどくさくて、俺は考えるのをやめた。俺が思考も活動も完全に停止している間も、目の前の惨劇は現在進行形。またいつもの悪い病気だ。
シズちゃんはとても嫉妬深い。それはもう、昼間にやっているドロドロしたドラマに出て来る女など比べるに値しないほどに。

今日、俺とシズちゃんは一緒に買い物に行った。ここ最近機嫌の良かったシズちゃん自ら、一緒に行きたいと申し出て来たのだ。もちろん俺に拒否権はない。普通にしていればかっこいい部類に入るシズちゃんはそれはもう人目をひいた。容姿以上に人目を惹いた理由は、ずっと俺の手を握っていたからだろう。
本当にいい迷惑だ。おかげで俺は立派なあちら側の住人として認識された。別にどうでもいいから怒るも何もしなかったけど。でもそこまでは良かった。ただ、俺が少しよそ見をしたのがいけなかった。
偶然にも、そのスーパーには同僚である波江がいたのだ。愛しくて堪らないと日々声を上げている、弟らしき人物と共に。だから俺は一目その弟くんの顔を見ようとしただけなのに。

その後はいつものパターンだ。怒ったシズちゃんに腕が引きちぎれるのではないかという力で引っ張られて、買い物も全部放り出して自宅に直行。部屋に入った途端、なぜかソファに押し倒された。わけが分からない。
不思議そうにシズちゃんを見ていると、ぶつかるようにキスをされた。口内を動き回る舌は酷く不快だ。内側から犯されるような感覚が嫌だったが、抵抗するともっと面倒なのでされるがまま。しばらくするとシズちゃんは疲れたのか唇をわずかに離した。今度は頬に何度もキスされたけど。

「……満足した?」

瞬間、平手打ち。でももう慣れた。熱を持ち始めた頬に手を当てると、シズちゃんがおろおろとしていた。たぶん無意識に叩いてしまっただろう。俺にとっては無意識だろうと何だろうと痛いことに変わりはないけど。

「あ、わるい、臨也、お、俺あの……」
「……」

うろたえるシズちゃんに、俺はなにも言わない。怒っているわけじゃないけど、どうも今は喋る気にもならなかった。
しばらく部屋の中には沈黙が続いていたけど、先に言葉を発したのはシズちゃんの方だった。だって彼は、沈黙が一番怖くて仕方がないから。

「い、臨也が悪いんだ。俺以外の奴見るから。俺は臨也しか見てないのに、どうしてお前は他の奴見るんだおかしいだろ普通に考えて。だから俺は悪くない。悪くないんだ」

まるで子どもの言い訳みたい。自分は悪くないと言って、その罪を俺になすりつける。そうしてシズちゃんはいつも罪悪感から逃げるのだ。ずっとだ。それをすることで余計に自分が苦しんでいることに気付かず、シズちゃんは俺にすべて投げ出してしまう。そうしたところで俺が受け止めるとは決まっていないのに。

「うん、そうだね。俺が悪い。全部俺が悪いんだ。だからシズちゃんは悪くない」

俺はただシズちゃんの言う通りに返しただけだ。肯定しただけ。シズちゃんは俺が悪いと言う。だから俺も自分が悪いと言った。別に罪悪感を感じているわけではないから、反省も何もしてないけど、この茶番劇をさっさと終わらせるにはこうするしかなかった。
だが今日のシズちゃんはいつもと違った。いつもなら泣きながら「分かってくれたらいいんだ」なんて見当はずれなことを言って、俺に縋りついてくるのに。
ただ茫然と俺の顔を凝視していた。俺は何かおかしなことを言ったのだろうか。

「い、臨也……怒ったのか?」
「……は?」

おかしな返事が彼から返って来た。俺が怒っている。誰に、何で。怒りだとか憎いだとか感情ここ最近なかった。
なぜならそこまで執着している存在が、俺にはない。人に対して好きだとか嫌いだとか思うには、まずその対象に関心を持っていることが前提だ。もし仮に、シズちゃんが死ぬと言いだしたとしよう。俺にはシズちゃんに対して関心がないから、止めもしなければ勧めもしない。何もしない。だって興味がないから。シズちゃんが生きようが死のうが、息をしていようがしていまいが興味がない。

「……シズちゃん、変なこと言うんだね」
「そ、そんなに変なこと言ったか……?」
「うん言った。ここ最近で一番変なことだよ」

シズちゃんの言葉は全部変だと思うけどね。それは言わないでおこう。
うんうんと頷きながら俺はシズちゃんを抱きしめた。ぽんぽんと子どもにするみたいに背中を叩く。後でまたプリン買いに行こうねって言ったら、シズちゃんは嬉しそうに笑った。
そういえば俺、どうしてシズちゃんのわがままに付き合ってるんだろう。興味なんか、全くないはずなのに。


















シズちゃんが幼すぎる……

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